不動産取引に必須の印紙税の知識(25)―継続的取引の基本となる契約(第7号文書)(2)―
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月刊 不動産フォーラム21 連載 |
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公益財団法人不動産流通推進センター「月刊 不動産フォーラム21」で連載をしております。2019年10月号の記事を掲載致します。
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不動産取引に必須の印紙税の知識(25)
―継続的取引の基本となる契約(第7号文書)(2)―
沼野 友香
鳥飼総合法律事務所弁護士
鳥飼総合法律事務所印紙税相談室所属
監修:鳥飼重和
[ぬまの・ゆか]鳥飼総合法律事務所弁護士。中央大学法学部卒業、慶應義塾大学大学院法務研究科修了。 (株)日本経営税務法務研究会主催、新日本法規出版(株)協賛による「印紙税検定(初級篇)®」の立ち上げに参画、「印紙税検定(中級篇)®」の講師を務める。鳥飼総合法律事務所印紙税相談室の創設メンバー。(email:inshi-zei@torikai.gr.jp)
1 前回の復習
今回は、前回に引き続き、継続的取引の基本となる契約書(第7号文書)について解説をします。まず、簡単に前回の復習をします。
継続的取引の基本となる契約書とは、特定の相手方との間に継続的に生ずる取引の基本となる契約書を意味します。第7号文書に該当する契約書の要件については、印紙税法の別表第1課税物件表のほか、印紙税法施行令26条にも定められています。同条に定められている第7号文書に該当する契約書の類型は5つありますが、そのうちよく問題となるのが、売買、売買の委託、運送、運送取扱い、請負に関する基本契約書です。そして、この契約類型に該当し、第7号文書に該当する文書の要件としては、以下の6つが挙げられます。
① 契約期間の定めがないか、契約期間が3か月を超えるか、3か月以内でも期間の更新に関する定め があること |
以上を踏まえ、今回は、第7号文書に関連する間違えやすい事例について解説をします。
2 事例1
図1の文書は課税文書に該当するでしょうか。また、課税文書に該当する場合には第何号文書に該当するか検討してみてください。
図1 エレベーター保守基本契約書
エレベーター保守基本契約書 甲と乙はエレベーター保守について次のとおり契約を締結する。 第1条 契約の対象となるエレベーター (省略) 第6条 甲は、本契約におけるエレベーター保守の対価として毎月5万円を毎月末日限り乙指定 (省略) 本契約締結の証として、本書2通を作成し、甲乙記名押印の上、各1通を保有する。 令和元年10月1日 公益財団法人 甲 印 |
図1の文書は、ビルを所有する公益財団法人甲とビルのメンテナンス会社乙との間で交わされたエレベーターの保守に関する契約書です。エレベーター保守は、エレベーターを安全に運転できる状態に保つことを仕事の完成とし、その仕事の結果に対して対価を支払うことを内容とするものですから、請負にあたります。
図1の文書が上記①~⑥の第7号文書の要件を満たしているか検討します。
この文書に契約期間の定めはなく(①を満たす)、エレベーター保守について(請負に該当するため③を満たす)、2以上の取引について共通して適用される取引条件のうち、目的物の種類、対価の支払方法を定めるもの(⑤を満たす)であり、電気又はガスの供給に関する契約書ではありません(⑥を満たす)。また、図1の文書のように、月等の期間を単位として役務の提供等の債務の履行が行われる契約については、料金等の計算の基礎となる期間1単位ごと又は支払いの都度ごとに1取引として扱うものとされています。図1の文書は対価の計算の基礎となる1月ごとに1取引として扱われることになりますので、2月以上の取引すなわち2以上の取引を継続して行うための契約であるといえます(④を満たす)。
問題は、営業者の間の契約について作成されるもの(②)であるか否かです。
営業者とは、営業を行う者をいい、営業とは、利益を得る目的で、同種の行為を反復継続して行うことをいいます。そして、公益法人は利益を得る目的で事業活動を行わないことから「営業者」に当たりません。②の要件は「営業者の間」とされていることから、契約当事者双方が営業者に当たらなければ第7号文書には該当しません。よって、図1の文書は②の要件を満たさず、第7号文書には該当しないことになります。
もっとも、図1の文書は、エレベーター保守という請負に関する契約書であるため、第2号文書に該当します。第2号文書は、営業者であることをその要件としていませんので、公益法人が作成する文書であっても第2号文書に該当することになります。
よって、図1の文書は第2号文書に該当します。図1の文書には記載金額はないため、200円の印紙貼付が必要となります。
3 事例2
図2の文書は、電気製品の継続的売買に関する契約書で、図3の文書は、図2の契約書第2条の製品単価を定める覚書です。①~⑥の要件に沿って検討していただければ、図2の文書が第7号文書に該当することはおわかりいただけると思います。では、図3の文書は課税文書に該当するでしょうか。また、課税文書に該当する場合には第何号文書に該当するか検討をしてみてください。
図2 売買基本契約書
売買基本契約書 甲と乙は次のとおり契約を締結する。 第1条 甲は乙に対し継続的に電気製品を売渡、乙はこれを買い受けるものとする。 (省略) 本契約締結の証として、本書2通を作成し、甲乙記名押印の上、各1通を保有する。 令和元年9月25日 株式会社甲ビル 印 |
図3 単価に関する覚書
覚書 甲と乙は、令和元年9月25日付けで締結した売買基本契約書第2条の製品単価に関し、製品Aについては1万円、製品Bについては2万円とすることを双方確認し、この覚書を作成、甲乙記名押印のうえ、各1通を保有する。 令和元年10月1日 株式会社甲ビル 印 |
図3の文書は、令和元年9月25日付けで締結した甲乙間の売買基本契約書の製品単価を定める補充契約書に該当します(③④⑤)。図3の文書に契約期間の定めはなく(①)、甲乙はいずれも株式会社で(②)、電気またはガスの供給に関する契約書ではありません(⑥)。よって、図3の文書も第7号文書に該当し、4,000円の印紙貼付が必要になります。
印紙税は課税文書を作成するたびに課税されるものですから、図2の文書が第7号文書に該当するとして4,000円の印紙を貼付していたとしても、やはり図3の文書にも4,000円の印紙を貼る必要があります。
このように基本契約に関する覚書であっても、第7号文書の要件を満たせば4,000円の印紙を貼る必要がありますので、注意をする必要があります。また、基本契約書のすべての事項について「別途定める」として4,000円の印紙代を節税したものの、各々の個別事項を定めた覚書がそれぞれ第7号文書に該当し4,000円×覚書の数分の印紙を貼らなくてはいけなくなることも考えられます。節税をしたつもりがかえって印紙代が高くなってしまうことのないよう、節税対策はよく考えて行う必要があります。
4 まとめ
2回にわたり継続的取引の基本となる契約(第7号文書)について解説しました。今回は間違えやすい判断のポイントについて解説しましたが、第7号文書は要件も多く、他の課税文書との所属の決定が必要となるケースも多いことから、判断が難しい局面も多々あります。また、印紙税額が一律4,000円であるため、通数の多い文書の場合には1つの判断ミスで巨額の納付漏れを生むこともあります。判断に迷ったら専門家に相談をしてみることもひとつの選択肢として考えてみてください。
以上
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