不動産等の譲渡に関する契約書(第1号の1文書)
出版・掲載 |
月刊 不動産フォーラム21 連載 |
---|---|
業務分野 |
詳細情報
公益財団法人不動産流通推進センター「月刊 不動産フォーラム21」で連載をしております。2019年7月号の記事を掲載致します。
その他の記事はこちらの書籍執筆、雑誌連載のご案内をご覧ください。
不動産取引に必須の印紙税の知識(22)
―不動産、鉱業権、無体財産権、船舶若しくは航空機又は営業の譲渡に関する契約書―
沼野 友香
鳥飼総合法律事務所弁護士
鳥飼総合法律事務所印紙税相談室所属
監修:鳥飼重和
[ぬまの・ゆか]鳥飼総合法律事務所弁護士。中央大学法学部卒業、慶應義塾大学大学院法務研究科修了。 (株)日本経営税務法務研究会主催、新日本法規出版(株)協賛による「印紙税検定(初級篇)®」の立ち上げに参画、「印紙税検定(中級篇)®」の講師を務める。鳥飼総合法律事務所印紙税相談室の創設メンバー。(email:inshi-zei@torikai.gr.jp)
1 まえがき
今回は、第1号の1文書といわれる「不動産、鉱業権、無体財産権、船舶若しくは航空機又は営業の譲渡に関する契約書」のうち不動産譲渡契約書について解説をします。不動産業界においては必須の知識になりますので、この機会にぜひ知識を深めてください。
2 不動産の譲渡に関する契約書(第1号の1文書)
印紙税法では、第1号の1文書として「不動産、鉱業権、無体財産権、船舶若しくは航空機又は営業の譲渡に関する契約書」が定められています。このうち、みなさんが最も目にされる文書は不動産の譲渡に関する契約書ではないかと思います。
この点、「不動産」の譲渡に関する契約書なので、第1号の2文書の「土地」の賃借権の設定又は譲渡に関する契約書とは区別する必要があります。すなわち、第1号の1文書は、第1号の2文書とは異なり、その対象が不動産のうち「土地」に限定されないことには注意が必要です(2019年2月号、本連載(17)参照)。したがって、建物の譲渡に関する契約書も第1号の1文書に該当します。
ある文書が第1号の1文書に該当する場合には、その記載された契約金額が1万円未満の場合には非課税となりますが、それ以外の場合にはその契約金額に応じて印紙税額が決まります。そして、第1号の1文書の契約金額は、売買契約の場合にはその売買金額になります。なお、時価60万円の土地を50万円で売買する旨の土地売買契約書では、その契約金額は実際の売買金額である50万円になりますので、50万円に応じた印紙貼付が必要となります。
3 不動産売買予約契約書
では、次は事例を用いて間違えやすい問題について検討していきます。
図1の文書には印紙税がかかるでしょうか。かかるとすればいくらでしょうか。
図1 不動産売買予約契約書
不動産売買予約契約書 売主甲は買主乙との間で以下のとおり不動産売買予約契約を締結する。 第1条 甲は、乙に対し、下記物件を売り渡すことを予約し、乙はこれを買い受けることを承諾した。 第2条 本予約に係る売買代金は、金5,000万円とする 契約の成立を証するため、本書2通を作成し、甲乙が記名押印のうえ各自1通所持する。 令和元年7月1日 甲 ㊞ |
※売買契約締結時には別途売買契約書を作成するものとします。
不動産の売買について、当事者双方が作成する予約契約書は、不動産の譲渡に関する契約書として第1号の1文書に該当します。図1の文書は「予約」契約書ですが、印紙税法上の契約書には予約契約書も含まれますので、結論に変わりはありません。
また、この結論は、後日、本契約書を作成し、本契約書に印紙を貼っても変わりません。なお、後日、本契約書を作成した場合には、本契約書にも印紙を貼る必要がありますが、本契約書で予約契約書の売買金額を引用し、本契約書には売買金額を記載しない場合には、本契約書に貼付する印紙を200円で済ませることができます(2019年2月号、本連載(17)参照)。
不動産売買契約書の契約金額は、その売買金額ですから、図1の文書の記載金額は5,000万円、印紙税額は2万円(軽減税率適用で1万円)となります。
4 不動産売買の仲介人が所持する文書
図2の文書も不動産売買に関する契約書ですが、図2では売主甲、買主乙に加え、仲介人丙も不動産売買契約書末尾に押印をしており、作成した契約書3通のうち1通を所持しています。この丙の所持する契約書にも印紙を貼る必要があるのでしょうか。
図2 不動産売買契約書
不動産売買契約書 売主甲と買主乙は、以下のとおり不動産売買契約を締結する。 第1条 甲は、乙に対し、下記物件を売り渡し、乙はこれを買い受けた。 第2条 売買代金は、金5,000万円とする。 契約の成立を証するため、本書3通を作成し、各自記名押印のうえ各1通を所持する。 令和元年7月1日 甲 印 |
図2の文書は、不動産の売買について、当事者双方がその契約の成立を証明する目的で作成する文書であり、不動産の譲渡に関する契約書として第1号の1文書に該当します。
仲介人丙の所持する文書も第1号の1文書に該当することに変わりはありませんので、契約金額5,000万円に応じた2万円(軽減税率適用で1万円)の印紙を貼る必要があります。もっとも、この不動産売買契約の当事者は、甲と乙ですから、仲介人丙はこの文書の作成者=印紙税の納税義務者ではありません。契約当事者である甲と乙が丙の所持する文書についても印紙を貼る必要があります。
なお、①契約当事者以外の者に提出する文書で、かつ、②その文書に提出先が記載されている、または文書の記載文言からみて契約当事者以外の者に提出することが明らかなものは課税文書に該当しません。ここでいう「契約当事者」とは、その契約の前提となる契約及びその契約に付随して行われる契約の当事者等、その契約に参加する者のすべてを含みます。したがって、本件のような不動産売買契約における仲介人は契約当事者以外の者とはいえませんので、図2の文書はこの①の要件を満たすとはいえません。契約当事者以外の者とは、例えば、監督官庁、融資銀行など契約に直接関与しない者をいいます。また、これらの契約当事者以外の者に提出する文書であっても、その旨が記載等されていなければ課税文書に該当することになりますので(②の要件の不充足)、この点には注意が必要です。
5 不動産売渡証書
図3の文書は不動産を譲渡した際の登記をするために作成される不動産売渡証書です。この文書の作成に先立ち甲乙間では別途不動産売買契約書を作成しています。図3の文書には印紙税がかかるでしょうか。かかるとすればいくらでしょうか。
図3
令和元年7月1日 甲 殿 乙 印 不動産売渡証書 乙は、下記不動産を1億円で本日甲に対し売り渡しました。 (不動産の表示) |
不動産の売買について、当事者双方が売買契約書を作成し、その後、登記をする際に改めて売主が作成し買主に交付する不動産の売渡証書は、不動産の譲渡に関する契約書として第1号の1文書に該当します。
この文書を作成する前に別途不動産売買契約書を作成していますが、印紙税の納税義務は課税文書を作成するごとに発生するので、この文書が不動産売買契約の成立を証明するために作成された文書である以上、課税文書に該当します。
不動産売買に関する契約書の契約金額は、その売買金額ですから、図3の文書の記載金額は1億円、印紙税額は6万円(軽減税率適用で3万円)となります。
なお、不動産の売渡証書に登録免許税の課税標準たる評価額が記載されることがありますが、この評価額は、売買契約における売買金額ではありませんので、その文書の記載金額には該当しません。この点はよく理解して区別する必要があります。
6 まとめ
今回は、不動産売買に関して作成される文書に焦点を当て、実務で問題となりうる点について解説しました。日頃よく目にしたり作成したりする文書も、印紙税の観点から改めて検討をすると新たな発見もあったのではないでしょうか。次回以降もぜひご期待ください。
以上
鳥飼総合法律事務所 弁護士 沼野友香
その他の記事はこちらの書籍執筆、雑誌連載のご案内をご覧ください。