不動産取引に必須の印紙税の知識(18)金銭又は有価証券の受取書(3)
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不動産取引に必須の印紙税の知識(18)
―金銭又は有価証券の受取書(3)―
1 今回のテーマと要点の確認今回は、金銭又は有価証券の受取書(第17号文書)を取り上げます。第17号文書については、以前の連載でも取り上げました。まずは、その要点から確認しましょう。
・第17号文書には、第17号の1文書と第17号の2文書があること。 |
2 事例1(振替済の通知書)
次の文書は、課税文書に該当するでしょうか。
事例1
振替済の通知書 株式会社B 御中 振替金額 108,000円 上記金額を口座振替により平成31年1月20日付で引落しさせていただきましたのでお知らせいたします。 平成31年1月27日 |
結論から申し上げると、この文書は第17号の1文書に該当します。印紙代は200円です。
一方当事者が他方当事者から現金を受領した際に交付する文書が第17号文書に該当するのはそこまで違和感なく受け入れられると思いますが、事例1の文書のように口座振替という方法によって支払を受けた場合に交付する文書もまた第17号文書に該当するというのは少し意外に感じられるのではないでしょうか。口座振替という方法によって支払を受けた場合、他方当事者が得たのは、厳密にいえば、現金そのものではなく、預金債権にすぎません。第17号文書は、「金銭又は有価証券の受取書」ですから、預金債権の受取書は第17号文書には当たらないようにも思えます。しかし、印紙税の実務上は、預金債権も金銭と同視され、預金債権を得た際に交付される受取書もまた第17号文書として扱われています。
また、口座振替の場合だけでなく、例えば、その文書中に「入金を確認しました」、「振込を確認しました」といった記載がある場合にも、他方当事者は預金債権を得たといえますので、これらの文書は、第17号文書となります。第17号文書の典型的な例としては、「●円を受領しました」といった記載のある文書が挙げられますが、現金を受領した場合に交付される文書だけでなく、預金債権を得た場合に交付される文書もまた第17号文書に該当するというのがここでのポイントとなります。「第17号文書に該当するのは領収書」と考えていると、このような預金債権を得た場合に交付される文書が第17号文書に該当することには気づきにくいかもしれませんので要注意です。
3 事例2(お礼状)
次の文書は、課税文書に該当するでしょうか。
事例2
お礼状 株式会社B 御中 平素より弊社のサービスをご利用いただきまして、ありがとうございます。 平成31年1月27日 |
結論から申し上げると、この文書は第17号の1文書に該当します。記載金額はありませんので、印紙代は200円です。
事例1で確認した通り、「振替」、「振込」、「入金」等の文言によって、預金債権を得た場合に交付される文書は第17号文書に該当します。しかし、事例2の文書の表題が「お礼状」となっている点、「お振込みいただきまして、ありがとうございました」という記載がある点からは、株式会社Aは、株式会社Bに対して感謝の意を示すため、この文書を作成したと思われます。
ところで、ある文書が課税文書に該当するためには、①その文書に課税事項の記載があること、②その文書が課税事項を証明する目的で作成されたこと、という2つの要件を満たす必要があります。つまり、ある文書が第17号文書に該当するためには、①その文書に金銭又は有価証券を受領した旨の記載があること、②その文書が金銭又は有価証券を受領したことを証明する目的で作成されること、といえる必要があります。
株式会社Aは、株式会社Bに対して感謝の意を示すために事例2の文書を作成したのであって、株式会社Bから金銭を受領したことを証明するためにこの文書を作成したわけではないようにも思われます。
しかし、印紙税の実務上は、①その文書に課税事項の記載があること、という要件を満たした場合には、通常、②その文書が課税事項を証明する目的で作成されたこと、という要件も満たすと判断される可能性が高いといえます。事例2の文書では、「平成31年1月分の代金をお振込みいただきまして、ありがとうございました。」という記載がされていますので、金銭を受領した旨の記載があるといえます。そのため、株式会社Aとしては株式会社Bに感謝の意を示すためにこの文書を作成したつもりであっても、印紙税の実務上は、株式会社Bから金銭を受領したことを証明するためにこの文書を作成したと判断される可能性が高いといえます。
このように、一方当事者としては、あくまで謝礼の趣旨で文書を交付した場合であっても、その文書に金銭の受領の事実が記載されている場合には、第17号文書と判断される可能性が高いため、注意が必要です。
4 事例3(お礼状+領収書)
では、株式会社Aが株式会社Bに対して、事例2で挙げたお礼状を交付しつつ、同時に領収書を交付していた場合、このお礼状は課税文書に該当するでしょうか。
同時に領収書を交付していた場合には、株式会社Aとしては株式会社Bから金銭を受領したことは、領収書で証明しようとしていますので、事例2の場合と比較すると、「お礼状では金銭を受領したことを証明しようとしていない」とより強く反論できるようにも思えます。
しかし、印紙税の実務上は、ある文書が課税文書に該当するかどうかは、その文書を単体として見て判断をするのが原則です。また、印紙税は契約の成立を証明する目的で作成された文書を課税対象とするものですから、ひとつの契約について2通以上の文書が作成された場合であっても、その2通以上の文書がそれぞれ契約の成立を証明する目的で作成されたものであるならば、いずれも印紙税の課税対象になります。そのため、お礼状の他に金銭を受領した事実を証明しようとしている文書があったとしても、そのことを理由にお礼状が第17号文書に該当しないと判断されないとまでは言い切れません。株式会社Aとしては、領収書とお礼状の両方に印紙を貼らなくても済むように、お礼状の文言を修正する必要があるといえるでしょう。
鳥飼総合法律事務所 弁護士 山田重則
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