他の文書の引用に関する取扱い(2)

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不動産取引に必須の印紙税の知識(15)
―他の文書の引用に関する取扱い(2)―

沼野 友香
鳥飼総合法律事務所弁護士
鳥飼総合法律事務所印紙税相談室所属
監修:鳥飼重和

 [ぬまの・ゆか]鳥飼総合法律事務所弁護士。中央大学法学部卒業、慶應義塾大学大学院法務研究科修了。 (株)日本経営税務法務研究会主催、新日本法規出版(株)協賛による「印紙税検定(初級篇)®」の立ち上げに参画。鳥飼総合法律事務所印紙税相談室の創設メンバー。(email:inshi-zei@torikai.gr.jp

1 まえがき
今回も引き続き他の文書を引用する場合の印紙税の取扱いについて解説をしていきます。前回は以下の2点について説明をしました。

原則:ある文書の内容に原契約書、約款、見積書など他の文書を引用する旨の文言の記載があるものについては、当該文書に引用されている他の文書の内容は当該文書に記載されているものとして当該文書の内容を判断する。

例外1:契約期間については、当該文書に記載されている契約期間のみに基づいて判断する。

今回は、記載金額に関する例外について説明をします。

2 記載金額は他の文書を引用しないが、第1号文書、第2号文書、第17号の1文書は引用する(例外2)
 原則としてある文書の内容に他の文書を引用する旨の文言の記載があるものについては、その引用されている他の文書の内容は当該文書に記載されているものとしてその内容を判断しますが、この原則には、記載金額に関しても例外があります。すなわち、記載金額については、他の文書の記載金額を引用することができず、当該文書に記載されている記載金額のみに基づいて判断することになります。ただし、第1号文書(不動産の譲渡に関する契約書等)、第2号文書(請負に関する契約書)、第17号の1文書(売上代金に係る金銭又は有価証券の受取書)については、以下の場合には他の文書に記載された契約金額等を当該文書の記載金額とすることができます。

(1)第1号文書、第2号文書
 ①契約金額が明らかである場合

第1号文書又は第2号文書であって、第1号文書又は第2号文書に係る契約についての契約金額の記載のある見積書、注文書、その他これらに類する文書の名称、発行の日、記号、番号その他の記載があることにより、当事者間においてその契約についての契約金額が明らかであるときは、その明らかである金額が記載金額となる

(例)工事請負注文請書(請負に関する契約書(第2号文書))に、「請負金額は貴注文書第1201号のとおりとする。」と記載されていて、注文書第1201号に記載されている請負金額が500万円の場合、注文請書の記載金額は500万円となります。

 ②契約金額の計算をすることができる場合

第1号文書又は第2号文書であって、第1号文書又は第2号文書に係る契約についての単価、数量、記号その他の記載のある見積書、注文書、その他これらに類する文書の名称、発行の日、記号、番号その他の記載があることにより、その契約についての契約金額の計算をすることができるときは、その計算により算出した契約金額が記載金額となる

(例)物品の委託加工注文請書(請負に関する契約書(第2号文書))に、「加工料は1個につき500円、加工数量は貴注文書第1202号のとおりとする。」と記載されていて、注文書第1202号に記載されている加工数量が1万個の場合、注文請書の記載金額は500万円となります。

 図2の物品委託加工注文請書にはA材加工料の単価500円の記載がありますが、これだけでは契約金額はわかりません。図1の注文書第1202号には加工数量1万個の記載がありますので、この2つを乗じることにより、契約金額500万円を導き出すことができます(加工料単価500円×1万個)。したがって、図1の注文書第1202号を引用することにより本契約についての契約金額の計算をすることができるので、計算により算出した500万円が図2の記載金額となります。

図1

発行日:平成30年11月26日 

注 文 書  第1202号

  甲株式会社 御中

乙株式会社 印  

  下記のとおり注文いたします。

A材加工 数量1万個

図2

発行日:平成30年11月30日 

物 品 委 託 加 工 注 文 請 書 

  乙株式会社 御中

  下記のとおりご注文をお請けいたします。

 A材加工 加工料 1個につき500円
         なお、加工数量は貴注文書第1202号のとおりとする。

甲株式会社 印

 ③課税文書、非課税文書の記載金額は引用しない

①又は②に該当する場合でも、引用しようとする他の文書が課税文書又は非課税文書であるときには、他の文書の契約金額等を、当該文書の記載金額とすることはできない

(例)物品の委託加工に関する注文請書(請負に関する契約書(第2号文書))に、「加工数量は1万個、加工料は委託加工基本契約書のとおりとする。」と記載されていて、委託加工基本契約書に加工料単価(500円/個)が記載されており契約金額の計算ができる場合であっても、委託加工基本契約書が課税文書に該当する(継続的取引の基本となる契約書(第7号文書))場合には、委託加工基本契約書に記載された加工料単価を引用することはできません。したがって、この注文請書は記載金額のない請負に関する契約書(第2号文書)となり、印紙税額は200円となります(図3)。

 なお、このケースで注文請書に加工数量だけでなく加工料の記載をしている場合には、注文請書の記載のみで契約金額の計算をすることができるようになり、注文請書は記載金額500万円の第2号文書に該当し、印紙税額は2,000円になります(図4)。

以上の例からも明らかなように、ある文書が第1号文書又は第2号文書に該当する場合には、単価と数量をそれぞれ別の課税文書に定めることにより節税をすることができます。

図3

4,000円

委託加工基本契約書

甲株式会社は乙株式会社から以下の内容でA材加工を請け負うこととする。 

A材加工料 1個につき500円

 

200円

物品委託加工注文請書

加工数量1万個、加工料は委託加工基本契約書のとおり

図4

4,000円

委託加工基本契約書

   甲株式会社は乙株式会社から以下の内容でA材加工を請け負うこととする。

A材加工料 1個につき500円

 

2,000円

物品委託加工注文請書

   加工数量1万個、加工料1個につき500円

(2)第17号の1文書

第17号の1文書であって、受け取る有価証券の発行者の名称、発行の日、記号、番号その他の記載があることにより、当事者間において売上代金に係る受取金額が明らかである場合は、その明らかである受取金額が記載金額となる

(例)物品売買代金の受取書に「ABC株式会社発行の№123の小切手」と記載されていた場合、記載金額はその小切手の券面金額となります。

第17号の1文書であって、受け取る金額の記載のある支払通知書、請求書その他これらに類する文書の名称、発行の日、記号、番号その他の記載があることにより、当事者間において売上代金に係る受取金額が明らかである場合は、その明らかである受取金額が記載金額となる

(例)請負代金の受取書に「ABC株式会社発行の支払通知書№123」と記載されていた場合、記載金額はその支払通知書の記載金額となります。

3 まとめ
 今回、前回で説明をした「他の文書の引用に関する取扱い」の原則例外を整理すると、以下のようになります。

原則:ある文書の内容に原契約書、約款、見積書など他の文書を引用する旨の文言の記載があるものについては、当該文書に引用されている他の文書の内容は当該文書に記載されているものとして当該文書の内容を判断する

例外1:契約期間については、すべての文書において当該文書に記載されている契約期間のみに基づいて判断する

例外2:記載金額については、第1号文書、第2号文書、第17号の1文書を除き、当該文書の記載金額のみに基づいて判断する。ただし、第1号文書、第2号文書であっても、その引用しようとする文書が課税文書又は非課税文書である場合には、これを引用することができず当該文書の記載金額のみに基づいて判断する。

 特に、例外2の第1号文書又は第2号文書が引用しようとする文書が課税文書又は非課税文書である場合には引用できないという点は、これを活用することで節税をすることができますので、不動産譲渡等や請負に関する契約を多く交わされる場合には契約の際に交わされる文書を一度見直されるとよいでしょう。             

以上

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