他の文書の引用に関する取扱い
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月刊 不動産フォーラム21 連載 |
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公益財団法人不動産流通推進センター「月刊 不動産フォーラム21」で連載をしております。2018年11月号の記事を掲載致します。
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不動産取引に必須の印紙税の知識(14)
―他の文書の引用に関する取扱い(1)―
沼野 友香
鳥飼総合法律事務所弁護士
鳥飼総合法律事務所印紙税相談室所属
監修:鳥飼重和
[ぬまの・ゆか]鳥飼総合法律事務所弁護士。中央大学法学部卒業、慶應義塾大学大学院法務研究科修了。 (株)日本経営税務法務研究会主催、新日本法規出版(株)協賛による「印紙税検定(初級篇)®」の立ち上げに参画。鳥飼総合法律事務所印紙税相談室の創設メンバー。(email:inshi-zei@torikai.gr.jp)
1 まえがき
今回は、他の文書を引用する場合の印紙税の取扱いについて解説をしていきます。これを正しく理解することによって、印紙の貼り漏れを防ぐこともできますし、節税をすることも可能となります。
2 他の文書の引用(原則)
甲資材株式会社(以下、「甲」といいます。)は、図1の乙建設株式会社(以下、「乙」といいます。)からの注文書を受けて、図2の注文請書を乙に原本交付しています。図1の注文書及び図2の注文請書に印紙税は課されるでしょうか。
図1
発行日:平成30年11月 1日 注 文 書 甲資材株式会社 御中 乙建設株式会社 印 TEL ‥ /FAX ‥ 下記のとおり注文いたします。
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図2
発行日:平成30年11月 5日 注 文 請 書 乙建設株式会社 御中 平成30年11月1日付け注文書のとおりご注文をお請けいたします。 甲資材株式会社 印 |
印紙税法上の契約書とは、契約の成立等の事実を証明する目的で作成する文書をいうところ、図1の文書は乙が契約の申込みの事実を証明する目的で作成された単なる申込文書であり、契約の成立等の事実を証明する目的で作成する文書ではありませんので、印紙税法上の契約書には該当せず、印紙税は課されません。
他方、図2の文書は乙の申込みに対する承諾の事実を証明する目的で作成された文書であり、契約成立の事実を証明する目的で作成された文書といえますので、印紙税法上の契約書にあたります。ところで、図2の文書の文面上は、「平成30年11月1日付け注文書のとおりご注文をお請けいたします」との記載があるのみで、注文の内容はわかりません。この点、図2の文書のように、ある文書の内容に原契約書、約款、見積書、注文書など他の文書を引用する旨の文言の記載があるものについては、当該文書に引用されている他の文書の内容は、当該文書に記載されているものとして当該文書の内容を判断するものとされています。したがって、図2の文書には、A材20本、B材30本の加工に関する申込みの事実とそれに対する承諾の事実が記載されていることになりますので、請負に関する第2号文書に該当し、記載金額が5万円のため1通につき200円の印紙税が課税されます。
3 契約期間は他の文書を引用しない(例外1)
図3、図4の文書は、エレベーター保守に関する文書であり、請負に関する契約書として第2号文書に、請負に関する継続的取引の基本となる契約書として第7号文書に該当します。これらの文書は、第2号文書と第7号文書のどちらとして課税されるでしょうか。
図3
エレベーター保守基本契約書 甲と乙はエレベーター保守について次のとおり契約を締結する。 第1条 契約の対象となるエレベーター (省略) 第6条 本契約におけるエレベーター保守の対価は別途定めるものとし、甲は毎月末日限り、当月分を乙指定の銀行口座に振り込み支払う。 第7条 本契約の有効期間は、平成30年11月1日から満1年とする。 (省略) 本契約締結の証として、本書2通を作成し、甲乙記名押印の上、各1通を保有する。 平成30年10月15日 甲不動産株式会社 印 |
図4
覚書 甲不動産株式会社及び乙ビルメンテナンス株式会社は、平成29年10月15日付けエレベーター保守基本契約に関し、次のとおり覚書を締結する。 第1条 平成29年10月15日付けエレベーター保守基本契約書第6条のエレベーター保守の月額単価は5万円とする。 平成30年10月25日 甲不動産株式会社 印 |
まず、図3の文書は、ビルを所有する不動産会社甲とビルのメンテナンス会社乙との間で交わされたエレベーターの保守に関する契約書ですが、エレベーター保守はエレベーターを安全に運転できる状態に保つことを仕事の完成とし、その仕事の結果に対して対価を支払うことを内容とするものですから、請負に関する第2号文書に該当します。
次に、図3の文書が第7号文書に該当するか否かについて検討します。第7号文書の要件としては、以下の6つが挙げられます。
① 契約期間の定めがないか、契約期間が3か月を超えるか、3か月以内でも期間の更新に関する定めがあること |
この文書の契約期間は1年であり(①をみたす)、株式会社という営業者間において(②をみたす)、継続するエレベーター保守について(請負に該当するため③をみたす)、2以上の取引について共通して適用される取引条件のうち、目的物の種類、対価の支払方法を定めるもの(⑤をみたす)であり、電気又はガスの供給に関する契約書ではありません(⑥をみたす)。④の2以上の取引を継続して行うための契約書であるか否かに関して、月等の期間を単位として役務の提供等の債務の履行が行われる契約については、料金等の計算の基礎となる期間1単位ごと又は支払いの都度ごとに1取引として扱うものとされていますので、図3の文書は対価の計算の基礎となる1月ごとに1取引として扱われることになります。有効期間は1年とされていますので、2月以上の取引すなわち2以上の取引を継続して行うための契約であるといえます(④をみたす)。よって、図3の文書は第7号文書にも該当します。
1つの文書が第2号文書と第7号文書に該当する場合は、その文書に記載金額があれば第2号文書に、記載金額がなければ第7号文書に該当します。図3の文書には契約金額が明記されていません。また、仮に月額単価の記載があればその金額に契約期間の月数等を乗じて算出した金額を契約金額とすることができますが、この文書には契約期間の記載はあるものの月額単価の記載がないため、契約金額の計算をすることができません。したがって、図3の文書は記載金額がないものとして第7号文書に所属が決定し、1通につき4,000円の印紙税が課されます。
図4の文書も図3の文書同様、エレベーター保守(請負)に関する継続的取引の基本となる契約書であり、図4の文書には契約期間の定めがなく、その他の要件もみたすため、第7号文書に該当します。
そこで、第2号文書と第7号文書のどちらに所属が決定するかを検討することになります。図4の文書には契約金額は明記されていませんが、月額単価の記載がありますので、図3の文書に記載された契約期間を引用することができれば、月額単価に契約期間の月数を乗じて算出した金額が契約金額となり、記載金額があるものとして第2号文書に所属が決定します。この場合、月額単価5万円×12か月=60万円に応じた200円の印紙税が課されることになります。ところが、契約期間については、当該文書に記載されている契約期間のみに基づいて判断することとされており、他の文書に記載された契約期間を引用することができません。そのため、図4の文書を判断する際に図3に記載された契約期間を引用することはできません。したがって、図4の文書は記載金額がないものとして第7号文書に所属が決定し、1通につき4,000円の印紙税が課されます。
4 まとめ
次回も引き続き他の文書の引用について解説いたします。ぜひご期待ください。
以上
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