電子文書に関する取扱い
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公益財団法人不動産流通推進センター「月刊 不動産フォーラム21」で連載をしております。2018年9月号の記事を掲載致します。
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不動産取引に必須の印紙税の知識(12)
―電子文書に関する印紙税の取扱い―
沼野 友香
鳥飼総合法律事務所弁護士
鳥飼総合法律事務所印紙税相談室所属
監修:鳥飼重和
[ぬまの・ゆか]鳥飼総合法律事務所弁護士。中央大学法学部卒業、慶應義塾大学大学院法務研究科修了。 (株)日本経営税務法務研究会主催、新日本法規出版(株)協賛による「印紙税検定(初級篇)®」の立ち上げに参画。鳥飼総合法律事務所印紙税相談室の創設メンバー。(email:inshi-zei@torikai.gr.jp)
1 まえがき
今回は、FAXで送付する注文請書、電子メールに添付して送信された契約書、WEB上で電子発行された受取書等の電子文書に関する印紙税の取扱いについて解説します。近年、契約締結に至る業務の効率化、郵送費や封筒代等の経費削減、文書管理の効率化等によるコンプライアンス強化などの利点のみならず、印紙税の節税対策という観点からも電子文書が注目されています。そこで、今回はこれらの電子文書を取り上げ、解説をしていきます。
2 FAXで送付する注文請書
まずは、FAXで送信する注文請書について、図1の事例をもとに考えていきましょう。
図1の注文請書は、甲建築株式会社(以下、「甲」といいます。)の注文を受けて、乙資材株式会社(以下、「乙」といいます。)がFAXで送信した注文請書です。図1の注文請書の印紙税の取扱いはどのようになるでしょうか。
<図1>
発行日:2018年9月1日 注 文 請 書
甲建築株式会社 御中 乙資材株式会社 印 下記のとおり注文をお請けいたします。
備考 |
印紙税法上の契約書とは、文書の名称のいかんを問わず、契約の成立等の事実を証明する目的で作成する文書をいいます。そして、注文請書など、契約当事者の一方のみが作成する文書も印紙税法上の契約書に含まれます。図1の文書は、契約当事者の一方である乙が作成した注文請書ですが、文書の記載を見ると、甲からのA材20本、B材30本の資材加工注文を請けた旨の記載がありますので、請負に関する契約の成立等の事実を証明する目的で作成された文書といえ、印紙税法上の契約書に該当します。
もっとも、図1の注文請書は乙から甲に現物の文書そのものが交付されたわけではなく、FAXで送信されたものです。この場合、印紙税法上の取扱いについてはどのように考えればよいでしょうか。
この点、印紙税の納税義務は、課税文書を作成したときに発生します。そして、課税文書の作成は、単に課税文書となるべき用紙等に課税事項を記載するだけでなく、これをその文書の目的にしたがって行使することをいいます。相手方に交付する目的で作成される課税文書では、文書の交付が課税文書の「作成」にあたります。従って、このような交付文書は、相手方に交付する時に印紙税の納税義務が発生するのであって、交付しなければ納税義務は発生しません。
乙の手元に残っているFAX送信用の文書の原本には課税事項が記載されてはいますが、甲に交付された文書ではありませんから、文書の交付=課税文書の作成がないため、印紙税の納税義務が発生しません。
他方、乙から甲に対し、FAXで図1のデータは送信されていますが、現物の文書が交付されたわけではありません。印紙税は「文書」に課税される税であり、この「文書」は文字や記号等を記した物(有体物)をいうと考えられています。この点、FAXで送信されるデータは無体物なので文字や記号を記すことはできず、FAXで送信されるデータ自体は「文書」にはあたりません。また、甲がFAXで受信したデータをプリントアウトした文書は、現物の文書ではなく、単なる現物の文書の写しと同様のものと認められますので、課税文書にはあたりません。
なお、当然ながら、FAX送信後に、乙が甲に対し現物の文書を交付した場合、その交付した現物の文書は課税文書に該当します。また、甲がFAXで受信したデータをプリントアウトした文書に、契約当事者双方が署名押印等をした場合や、「原本と相違ない」などの記述をした場合にもその文書は課税文書に該当することになりますので、注意が必要です。
3 電子メールに添付して送信された契約書
近年は印紙税の節税対策のため、契約締結の際に、一方の契約当事者(甲)が契約書に署名・押印の上、これを電子メールに添付して相手方(乙)に送信し、相手方(乙)がこれをプリントアウトの上、署名・押印して同様の方法で返信するなどして契約を交わすケースも見受けられます。この場合の印紙税法上の取扱いはどのように考えればよいでしょうか。
いわゆる典型的な「契約書」のように、契約当事者の意思の合致を証明する目的で作成される課税文書は、契約当事者の意思の合致を証明することで課税文書を「作成」することになります。したがって、このような契約書形式の文書は、契約当事者の意思の合致の証明の時、すなわち契約当事者双方の署名押印が同一の文書上で揃った時に印紙税の納税義務が発生するのであって、双方の署名押印が揃わなければ納税義務は発生しません。
上記のケースでは、契約当事者の各々が所持する文書には自らの署名・押印しかなく、契約当事者双方が署名押印をした文書の現物が存在しないため、課税文書を「作成」したとはいえず、印紙税の納税義務は発生しません。
なお、乙は甲が署名・押印済みの契約書の画像データをプリントアウトした上でこれに署名・押印をしていますので、乙が所持する契約書には甲の署名・押印の写しと乙の肉筆の署名・押印が揃っています。もっとも、契約当事者の意思の合致を証明するためには、契約当事者双方の肉筆の署名・押印が揃う必要がありますので、乙の所持する契約書は契約当事者の意思の合致が証明されているとはいえず、課税文書にはあたりません。
4 WEB上で電子発行された受取書
電子発行された受取書の印紙税法上の取扱いはどのように考えればよいでしょうか。
受取書も2の注文請書同様、相手方に交付する目的で作成される文書になりますので、文書を交付することで課税文書を「作成」することになります。したがって、受取書は、相手方に交付する時に印紙税の納税義務が発生するのであって、交付しなければ納税義務は発生しません。
WEB上で電子発行される受取書の場合、画像データは交付されていますが、現物の文書の交付はされていません。そして、このようなデータ自体が「文書」にはあたらないことについては先に説明したとおりです。また、このデータをプリントアウトした文書が、現物の文書の写しと同様、課税文書にあたらないことについてもFAX送付の場合と同様です。
上記の結論は、受取書を画像データ化して電子メールに添付して送信した場合も変わりません。
なお、いずれの場合も改めて文書の現物の交付をする場合には、受取金額に応じた印紙税貼付が必要になりますので、注意が必要です。
5 まとめ
以上のように、電子文書には印紙税の節税という点からも大きなメリットがあり、普及が進んでいます。しかし、契約書等の文書を残す理由が後日の紛争に備える点にあることからすると、写しのみを所持することに一抹の不安を感じることもあると思います。契約当事者間で紛争になった際、原本と写しでは、裁判上、証拠としての価値が高いのは、原本です。
ただし、そのような紛争の心配がないグループ会社間などの取引では、文書の電子化は有用な節税対策であると考えます。また、電子署名を用いた電子契約書であれば従来の肉筆の署名押印のある契約書と同等の法的効力を持つとされていますので、このようなサービスを導入する企業も出てきています。新たなサービスの導入はハードルが高いとしても、グループ会社間などの取引で上記のような方法を活用することは比較的容易に実践できるのではないでしょうか。この機会に現在作成されている文書について改めて検討されてみてはいかがでしょうか。
以上
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