請負に関する契約書(請負と委任の区別)
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月刊 不動産フォーラム21 連載 |
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公益財団法人不動産流通推進センター「月刊 不動産フォーラム21」で連載をしております。2018年4月号の記事を掲載致します。
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不動産取引に必須の印紙税の知識(7)
―請負に関する契約書(請負と委任の区別)―
1 請負と売買、請負と委任の区別の難しさ
今回は、請負に関する契約書(第2号文書)について解説します。
「請負」は皆様にも馴染みのある契約だと思いますが、改めてどのような契約なのかと問われるとよくわからない点も多々あると思います。特に、請負と委任の区別、請負と売買の区別、またはこれらの混合契約にかかる印紙税の課否判断などに悩まれることも多いのではないでしょうか。
今回と次回は、請負に関する契約書に関し、詳しく解説していきます。
2 請負とは
請負とは、当事者の一方がある仕事を完成することを約し、相手方がその仕事の結果に対して報酬を支払うことを約することにより効力を生ずる契約をいいます。
請負の目的物は、建物建築、物品の製作・加工・修理のような有形のものに限られず、プログラム保守、ビルの清掃など無形のものも含まれます。
請負の特徴は、契約の目的が仕事を完成させることにある点です。このような特徴から、一般的に請負においては、請負者が自ら仕事を行わず第三者に下請けさせることもできます。また、仕事を完成して初めて報酬を得られるため、仕事を完成しなくても報酬が支払われるものは基本的には請負に該当しない例が多いでしょう。
3 請負と委任の区別
第三者に業務を委託する契約としては、請負の他に「委任」があります。
委任とは、当事者の一方が法律行為をすること(事務を処理すること)を相手方に委託し、相手方がこれを承諾することによって効力を生ずる契約をいいます。
請負も委任も、ともに役務を提供して業務を行い、委託者の指揮命令を受けないという点で共通していますが、その違いは、請負が仕事の完成を契約の目的としているのに対し、委任は事務を処理すること自体が契約の目的とされている点にあります。
印紙税との関係では、ある文書が請負に該当すれば、請負に関する契約書(第2文書)や請負の継続的取引の基本となる契約書(第7号文書)として印紙税の課税対象となるのに対し、委任に該当すれば、売買の委託など継続的取引の基本となる契約書(第7号文書)に該当するもの以外は不課税となりますのでその区別が重要です。
ところが、ある契約の目的が、仕事の完成なのか事務処理そのものなのかの判断はなかなか難しく、請負と委任の区別については頭を悩ませている方も多いのではないでしょうか。
そこで、今回は不動産に関連する事例を用いて請負と委任について解説をしていきます。
事例1 媒介手数料に関する覚書
甲は、不動産業者乙との間で不動産売買の媒介契約を締結しており、乙の媒介により、丙と不動産売買契約を締結しました。ところが、甲乙間の媒介契約書では不動産業者乙に対する手数料を具体的に定めていなかったので、図1の覚書で手数料の金額と支払方法を定めました。図1の覚書は課税文書にあたるのでしょうか。
図1
媒介手数料に関する覚書 甲と乙は、次のとおり媒介手数料に関する取り決めをした。 第1条 甲が丙と締結した後記物件の売買にかかる媒介手数料を金150万円と定め、甲は乙に支払うことを承諾した。 第2条 媒介手数料の支払方法は、次のとおりとする。 1. ・・・ 2. ・・・ 第3条 不動産業者乙は甲のために誠意をもって取引完了まで努力するものとする。 平成30年4月1日 甲 ㊞ 物件の表示 土 地 建 物 |
そもそも、このケースではすでに媒介契約書が作成されています。このような場合、図1のような文書が課税文書にあたることはあるのでしょうか。図1の文書は、媒介契約書で定めていなかった媒介手数料の金額と支払方法を補充するもので、このような文書は一般に補充契約書と言われます。そして、補充契約書の課否判断については、連載第4回「変更契約書の取扱い」(2018年1月号)の場合と同様、当該文書に印紙税法で定められている重要な事項の記載があるか否かで考えます。つまり、印紙税法で定められている重要な事項の補充をしていれば課税文書になりますが、重要な事項の補充をしていないのであれば課税文書にはなりません。したがって、仮に不動産の媒介契約が請負に関する契約に該当する場合には、この覚書では、第2号文書の重要な事項にあたる「契約金額」、「契約金額の支払方法又は支払期日」を補充していることになりますので、第2号文書として、印紙を貼る必要があります。
では、不動産の媒介契約は請負に関する契約に該当するのでしょうか。不動産の媒介契約は、不動産の購入又は売却を希望する人が、不動産に関する知識・経験を有する専門業者に、不動産媒介という事務処理を委託するものです。つまり、何らかの仕事の完成を目的とするものではなく、専門業者である受託者自身が不動産媒介という事務処理を行うことが契約の目的になりますので、不動産媒介契約は委任契約に該当します。
したがって、図1の覚書は、請負に関する契約書には該当しません。
事例2 工事監理業務委託契約書
甲は、宅地造成又は住宅建築の際の監理業務を、造成や建築の請負者ではない第三者乙に委託しており、その際、図2のような契約書を作成しています。図2の契約書は請負に関する契約書にあたるでしょうか。
図2
工事監理業務委託契約書 委託者甲と受託者乙は、以下のとおり業務委託契約を締結する。 1. 件名 鳥飼マンション工事監理業務委託 平成30年4月1日 |
結論としては、図2の契約書は、請負に関する契約書(第2文書)に該当します。
工事監理は、設計図書と照合して工事が設計図書どおりに実施されているかどうかを受託者の責任において確認することを内容とする契約であり、工事監理者は、設計図書どおりに工事が行われているかを確認することで欠陥の発生を未然に防ぐ重要な役割を担っています。また、一定の建築物の工事監理は建築士の資格がなければ行うことのできない業務です。このような工事監理の性質からすれば、工事監理は、仕事の完成を目的とするのではなく、工事監理者である受託者が監理業務を行なうこと自体が契約の目的となっていると考えられますので、委任契約に該当します。したがって、一般に工事監理業務委託契約は、請負に関する契約には該当しません。
もっとも、図2の契約書では、「4.設計の一部委託」により、宅地造成又は住宅建築に必要な設計図書等の作成を委託し、対価を得てその設計図書の完成を約していますので、この点は請負に関する契約書に該当します。
そして、印紙税は、文書の表題からすると不課税になりそうな場合であっても、その内容に課税事項の記載があれば、その文書全体が課税文書に該当することになります。したがって、図2の契約書において、工事監理に関する部分は不課税の委任契約にあたりますが、その一部で設計図書作成という請負に関する契約の成立の事実を証明していますので、請負に関する契約書(第2号文書)に該当します。
表題や、内容の大部分が不課税文書に該当する文書であっても、その中に1文でも課税事項が記載されていれば課税文書となってしまいますので、この点は注意が必要です。不課税文書として印紙を貼っていない文書も改めて文書の内容を確認し、印紙の貼り漏れがないか確認をしてみてください。
このように、請負と委任の判断は難しい点が多く、様々な判断基準が示されているところではありますが、本質的にはやはり契約の目的が仕事の完成にあるか否かを読み解き判断する必要があります。次回も請負の事例を取り上げ、理解を深めていただく予定です。
ぜひ、ご期待ください。
以上
鳥飼総合法律事務所 弁護士 沼野友香
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