不動産取引に必須の印紙税の知識(5)所属の決定

著者等

山田 重則

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月刊 不動産フォーラム21 連載

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印紙税相談

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不動産取引に必須の印紙税の知識(5)
 ―土地賃貸借契約書の所属の決定―

1 今回のテーマ
 今回は、土地賃貸借契約書を題材として取り上げます。土地賃貸借契約書は、読者の皆様にとっては、業務で扱うことも多く、馴染みのある文書かと思います。しかし、実は、土地賃貸借契約書は印紙税実務上、誤りやすい点が多く、正確に印紙を貼るためには、かなりの知識を要します。以下では、「契約金額」、「受取金額」について知識を整理した上で、「所属の決定」という問題を扱います。事例を用いて分かりやすく解説しましたので、ぜひ、この機会に理解を深めてください。

2 賃貸借契約の契約金額と受取金額のポイント
 まず、図1の土地賃貸借契約書は、土地の賃借権の設定に関する契約書(1号の2文書)にあたります(図は、説明のため、あえて簡略化しています。)。

図1

 土地賃貸借契約書

1.土地の表示 A県B市C町一丁目1番1号
2.賃   料 (1か月)30万円
3.敷   金 100万円
 *敷金は契約終了時に、賃料未払いその他の損害ある場合は
これを控除した残金を賃貸人より賃借人に返還します。

 平成29年12月12日
賃貸人 甲
賃借人 乙

 それでは、この契約書にはいくらの印紙を貼るべきでしょうか。土地の賃借権の設定に関する契約書は、契約金額によって印紙代が決まります。図1の契約書には、30万円の賃料と100万円の敷金といった金銭が記載されているため、これらが契約金額にあたるようにも思えます。しかし、結論としては、どちらの金銭も契約金額にはあたりません。そのため、この文書は契約金額の記載のない文書として、印紙代は200円になります。

 土地の賃借権の設定に関する契約書では、賃料や後日、賃借人に返還される敷金等は契約金額にあたらないというのがここでのポイントです。土地の賃借権の設定に関する契約書の契約金額は賃借権設定の対価の金額ですが、賃料は賃借権設定の対価ではなく、土地の使用収益の対価であり、また、賃借人に返還される敷金等は返還される以上、賃借権の設定の「対価」とはいえません。裏を返すと、後日、賃借人に返還されない保証金や権利金等は契約金額にあたりますから、これらの記載がある場合には、その金額を基に印紙代を算定する必要があります。

 次に、図1の土地賃貸借契約締結に際し、賃借人乙から賃貸人甲に支払われた敷金の受取書について考えましょう。図2の敷金の受取書は、金銭の受取書にあたりますが、売上代金の金銭の受取書(17号の1 文書)と売上代金以外の金銭の受取書(17号の2 文書)のどちらにあたるでしょうか。

図2

受取書

 平成29年12月12日付土地賃貸借契約締結の際、賃借人は敷金として100万円を賃貸人に支払い、賃貸人はこれを受領しました。

賃貸人 甲

 売上代金の金銭の受取書にあたる場合には、金額の多寡によって印紙代が変わりますが、売上代金以外の金銭の受取書にあたる場合には、金額の多寡にかかわらず、印紙代は200円になるため、問題になります。
 結論としては、売上代金の金銭とは、資産を譲渡若しくは使用させること又は役務を提供することによる対価をいいますから、ここでも、後日、賃借人に返還される敷金は売上代金の金銭にはなりません。したがって、図2の受取書は、売上代金以外の金銭の受取書(17号の2 文書)にあたりますから、印紙代は200円になります。他方で、賃料や後日、返還されない保証金や権利金を受け取った場合には、これは資産を使用させることによる対価といえますから、その受取書は売上代金の金銭の受取書(17号の1 文書)にあたり、その受取金額を基に印紙代を算定する必要があります。

 ここまでの知識を整理すると、以下の通りです。特に、賃料の扱いは要注意です。

①後日、賃借人に返還される敷金等は、契約金額にも売上代金にも該当しない。
②後日、賃借人に返還されない保証金や権利金等は、契約金額にも売上代金にも該当する。
③賃料は、契約金額には該当しないが、売上代金には該当する。  

3 所属の決定
 それでは、図3のように図1の賃貸借契約書と図2の受取書を1 つの文書に記載した場合、印紙代はどのように考えたらいいのでしょうか。

図3

土地賃貸借契約書

1.土地の表示 A県B市C町一丁目1番1号
2.賃   料 (1か月)30万円
3.敷   金 100万円
 *敷金は契約終了時に、賃料未払いその他の損害ある場合は
これを控除した残金を賃貸人より賃借人に返還します。
 *この契約締結の際、賃借人は敷金として100万円を賃貸人
に支払い、賃貸人はこれを受領しました。

平成29年12月12日
賃貸人 甲
賃借人 乙

 図3の文書は、図1の文書と図2の文書が一体化したものですから、上記2で説明した通り、土地の賃借権の設定に関する契約書( 1 号の2 文書)にもあたりますし、売上代金以外の金銭の受取書(17号の2 文書)にもあたります。このように1 つの文書が2 種類以上の課税文書に該当する場合には、どちらの文書として印紙代を算定すればよいか判断するために、所属の決定というルールに従って、いずれか1 つの課税文書として取り扱う必要があります。
ある文書が土地の賃借権の設定に関する契約書と金銭の受取書に該当した場合のルールは、次の通りです。

ア ①売上代金の受取金額が記載されていて、②それが100万円を超えており、③しかも、土地の賃借権の設定に関する契約金額を超えている場合には、売上代金の金銭の受取書になる。
イ ①売上代金の受取金額が記載されていて、②それが100万円を超えており、③しかも、土地の賃借権の設定に関する契約金額の記載がない場合には、売上代金の金銭の受取書になる。
ウ アとイ以外の場合には、土地の賃借権の設定に関する契約書になる。

図3の土地賃貸借契約書にこのルールをあてはめてみると、賃貸人甲が受け取った敷金は、上記2で説明した通り、売上代金にはあたりませんから、ウのルールによって、この文書は、土地の賃借権の設定に関する契約書になります。そして、この文書には契約金額の記載はありませんので、印紙代は200円になります。

 では、図4の土地賃貸借契約書にこのルールをあてはめてみると、どうなるでしょうか。

図4

土地賃貸借契約書

1.土地の表示 A県B市C町一丁目1番1号
2.賃   料 (1か月)30万円
3.権 利 金 120万円
*権利金は本契約終了時に賃借人に返還されません。
*この契約締結の際、賃借人は権利金120万円と賃料1か月分
の合計150万円を賃貸人に支払い、賃貸人はこれを受領しました。

平成29年12月12日
賃貸人 甲
 賃借人 乙

 まず、賃貸人甲が受領した150万円は、後日、賃借人に返還されない権利金と賃料の合計であり、売上代金の受取金額にあたります(①の要件を満たします。)。次に、これは100万円を超えています(②の要件を満たします。)。そして、後日、賃借人に返還されない120万円の権利金は契約金額にあたりますが、30万円の賃料は契約金額にはあたりませんので、土地の賃借権の設定に関する契約金額は120万円となります。したがって、売上代金の受取金額(150万円)は、契約金額(120万円)を超えます(③の要件を満たします。)。以上より、アのルールによって、この文書は、売上代金の金銭の受取書(17号の1 文書)になり、印紙代は400円となります。

 今回は、土地賃貸借契約書を題材として、契約金額や受取金額、所属の決定について説明しました。特に所属の決定に関しては、難しいと感じた方も多かったかもしれませんが、実務上、図3、図4のように1 つの文書が2 種類以上の課税文書にあたることはよく起こります。所属の決定に関しては、今後の連載でも取り上げる予定ですので、少しずつ、慣れていきましょう。

鳥飼総合法律事務所 弁護士 山田重則

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