連載 リスクコンシェルジュ~税務リスク 第67回 アメリカに移住するのだから日本での納税はもはや関係ないですよね・・・
アメリカに移住するのだから日本での納税はもはや関係ないですよね・・・
Q 私は、日本の田舎町で、アメリカから日本に輸入した雑貨を、インターネットを通じて日本の顧客に販売する事業を営んでいる者です。このたび、念願の夢が叶い、自由の国、アメリカに移住することになりました!しかし、心配ごとが一つあります。所得税の申告です。 今のインターネット通信販売事業は、アメリカにいながらにしても、インターネットを通じて行うことはできるので、そのまま継続しようと思っています。現在日本で使っている出荷用の倉庫もそのまま残して、私が雇っている従業員さんにも今後も頑張ってもらう予定です。事業主である私がアメリカに居住することになるのですから、アメリカで納税すればよく、日本では税務申告は移住後はいらないと考えているのですが、それでよろしかったでしょうか?
A 日本での申告が必要となることが十分ありえます。 インターネット通信販売においては、商品の配送が事業の重要な部分を占めているため、商品の配送のための倉庫が日本にあるということですと、課税のポイントとなる「恒久的施設」(英語表記ではPermanent Establishmentといい,頭文字をとって「PE」と呼ばれています。) が日本に残っているとされる可能性が高いです。「恒久的施設」といえるものとなっているかについては、事業全体において倉庫の果たしている役割や、そこでの事業内容、たとえば単なる保管、引渡しのためだけに使用されているものなのかどうかにもより、非常に判断の難しい問題ですので、国際税務に精通した専門家に相談されることをお勧めします。
[解説]
1 PEって何?
PEとは、「恒久的施設」の英語の略語で、PEは、日米租税条約5条1項では、「事業を行う一定の場所であって企業がその事業の全部又は一部を行っている場所をいう。」と定義されています。ここでいう「企業」とは法人事業と個人事業を含んだ広い意味での事業主体のことを指しています。これだけだと一部の事業を行っていさえすれば、その施設は広くPEに該当するようにも読めますが、他の条文で「・・・商品の保管、展示又は引渡しのためにのみ」利用されている施設や「・・・準備的又は補助的な性格の活動を行うことのみを目的として保有している場所等はPEから除くとされており(日米租税条約4条1項(a)(e)等)、なかなか複雑な条文構成になっています。最近の裁判例では、インターネットの通信販売で使用している倉庫等について、その事業における役割の重要性から「・・・商品の保管、展示又は引渡しのためにのみ」利用されている施設とはいえないと判示したものがあり(東京地方裁判所平成27年5月28日公刊物未掲載)、条文解釈を含め、裁判で争われているところでもあります。
アメリカ在住のものが日本のPEを使って事業を行っているとなると、日本の課税当局はそこに「帰せられる」所得に対して課税を行うことができることとなるため(日米租税条約7条1項)、PEが日本にあるかないかは課税において非常に重要な意味合いをもってきます。
2 PE帰属所得ってどうやって計算するの?
PEが日本にあるとなると次は、PEに「帰せられる」所得はいくらかということが問題となります。これをどうやって計算するかというと、日米租税条約においては次のように規定されています。まずPEをまるでアメリカの事業主体は全く別の日本における事業主体とみなします。その上で、その独立の事業主体である日本のPEと、アメリカの事業主体がこれとは独立の立場で取引を行ったと仮定します。その仮定の中で、日本のPEが取得するであろう利得(ただしPEの事業のために生じた経営費や販管費はアメリカで生じたものであっても控除できます。)をもって、日本のPEに「帰せられる」所得として扱うこととされています(日米租税条約7条2項・3項)。以上のとおり、PEに「帰せられる」所得については、仮定に仮定を重ねるわかりにくい算出方法となっています。なお、先に掲げた裁判例では、日本のPEである倉庫等が事業における唯一の販売拠点となっていたこと等を理由に、インターネット通信販売業で稼得する全所得が日本のPEに「帰せられる」所得であるといった旨判示しています。
このように、日本での施設が日米租税条約上のPEにあたるか、あたるとして日本のPEに帰属する所得金額はどの程度になるか、については、条文解釈(しかも現在裁判所で係争中のものも含まれています。)や事実認定、事実に対する評価等、専門的な判断が実は必要となってきます。万が一、同じ事業についての課税が日米で重複してしまった場合の外国税額控除等の調整の行い方を含め、一度、国際税務に精通した専門家に相談されてはいかがでしょうか。
鳥飼総合法律事務所 弁護士 西中間 浩
※ 本記事の内容は、平成27年3月末現在の法令等に基づいています。
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