連載 リスクコンシェルジュ~税務リスク 第45回 租税回避をしても,課税されるわけではない?

租税回避をしても,課税されるわけではない?

 

 現在,弊社は,税務調査を受けているのですが,税務署から「租税回避なのでこのままいくと更正になります」といわれています。しかし,顧問税理士の先生の検討によれば,「本件において課税をできる明確な根拠はないはずだ」ともいわれています。  弊社の行為が租税回避だと認定された場合,追徴課税をされることになるのでしょうか。

 

 結論から申しますと,租税回避であるというだけでは,課税をすることはできません。課税をするためには,租税法律主義(憲法84条)のもとでは,課税要件を明確に定めた法律の根拠が必要になるからです(課税要件法定主義,課税要件明確主義)。

  これまでも,租税回避であることや,税負担を軽減するためにあえて締結された契約であることなどを理由に追徴課税をされた例はあります。しかし裁判所では国が敗訴しています(その意味では追徴課税をされるリスクはないとはいえません)。

租税回避行為であることが認定されながらも,課税処分は違法であるとされた裁判所の判決として,武富士事件(最高裁平成23年2月18日第二小法廷判決)があります。贈与税を回避するために香港に住所を移した事案で租税回避の意図は明らかですが,当時の相続税法では「住所」がどこであるかを基準に考えるとされていたため,実際に生活をしている場所が香港であった以上,租税回避の意図があるかどうかは考慮できないと最高裁判所はいったのです。

また,税負担を軽減させる意図で行われた取引であることは認めながらも,課税できる法律の規定がないことを理由に,課税処分を違法と判断した事案もあります。岩瀬事件(東京高裁平成11年6月21日判決),航空機リース事件(名古屋高裁平成17年10月27日判決),船舶リース事件(名古屋高裁平成19年3月8日判決),日本ガイダント事件(東京高裁平成19年6月28日判決)などです。税負担を軽減するために当事者があえて締結した契約でも,民法では「契約自由」が原則です。そこで,民法上自由であり有効な契約について,租税法上の明文がないにもかかわらず,税負担の軽減目的であるからといって,それだけで課税することは許されないと解されています。

ここで注意すべきは,契約書があればいいということではありません。民法でも契約書が作成されていても,当事者の真の意図としてはそのような契約を締結する意思がない場合は「虚偽表示」(仮装契約)として無効になります(民法94条)。したがって,契約書を作成する際には,当然ながらそれにともなう実態も備えなければなりません。たとえば,代金が2000万円と書いてある4年前の売買契約書がある場合に,実際には代金は全く支払われていない(支払を請求したあともない)し,売買の目的物の引渡しもされていないとなれば,仮装と判定される可能性があります。

  なお,租税回避は,違法行為ではない点で脱税と異なります。また,通常行われる行為ではない点で節税とも異なります。こうした租税回避については,裁判所も,これを否認できるとする法律(租税法)の規定がない限り,租税回避行為であることを理由に課税をすることは許されないとしています。

  これに対して話題になったヤフー事件,日本IBM事件については,否認できる規定が法律にあった場合の事例です。ヤフー事件(東京地裁平成26年3月18日判決)は,組織再編成の否認規定である法人税法132条の2(個別否認規定)の適用が問題になりました。日本IBM事件(東京地裁平成26年5月9日判決)は,同族会社の行為計算否認規定である132条(包括的否認規定)の適用が問題になりました。

  今回の税務調査においても,こうした否認規定がある場合なのか(ある場合には,どのような規定の適用が問題になるのか),否認規定がない場合であれば,なにゆえ課税されることになるのか(その根拠法令及び条文)を明らかにしてもらうことが,税務調査対策としては重要です。

 以上

鳥飼総合法律事務所 弁護士 木山 泰嗣

※ 本記事の内容は、2014年7月現在の法令等に基づいています。
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