連載 リスクコンシェルジュ~税務リスク 第43回 従業員が受け取っているリベートを禁止しないと会社の収益として課税されることがあるよと言われたのですが・・・
第43回 従業員が受け取っているリベートを禁止しないと
会社の収益として課税されることがあるよと言われたのですが・・・
Q 当社の業界では、従業員が取引業者から金銭を受け取っているという噂をよく耳にします。そのため、ことあるごとに「勝手に取引先から金銭を受け取っちゃいかん」とは言い聞かせているのですが、これまできちんと調査したり懲戒処分を行ったりしたことはありませんでした。放っておくと、会社の収益とされて数年分まとめて納税を迫られる上に、35%の重加算税の課税や青色申告承認の取消処分まで受ける可能性があると聞きました。本当だとすれば、当社は完全に資金がショートしてしまいます。そのようなことはあるのでしょうか。
A そのような課税処分はありうる話です。受領の事実を知りながらこれを放っておくと、会社の収益であるにもかかわらず従業員が受け取ることを黙認していた、ひいては会社から受領権限を与えられていたと認定される危険があります。そうすると、本来会社の収益として計上すべきものが計上されていませんので、収益の隠ぺいだとして、重加算税や青色申告承認の取消しといった重い課税処分につながるわけです。
[解説]
1 リベートを禁止する理由
この種のいわゆるリベートの受領は、独占禁止法に違反する可能性があることに加えて、これを従業員に受領されると勝手に持ち出されかねないといったリスクを生じさせます。加えて、今回のご質問のような税務リスクを生じさせるのですから、禁止する必要があるでしょう。
2 横領があったとしても結論に差は生じない
従業員が持ち出したとしても、その分、会社はこの従業員に損害賠償請求ができますので、リベート分が会社の収益とされることに変わりはありません。このあたりは「第40回 社員の横領が発覚!」もご参照ください。
3 就業規則による禁止と周知徹底
このような予期せぬ課税処分を避けるためには、就業規則でこのようなリベートの受領を明確に禁止し、かつ、その旨、従業員に周知徹底させることが重要です。裁判例においても、就業規則でリベートの受領を禁止し、その旨従業員に周知徹底していた事実が有利に働いて、最終的にはご質問にあるような課税処分が取り消されたものがあります(仙台地裁平成24年2月29日判決・裁判所HP)。従業員が勝手に受け取っている金銭だから会社とは関係がないと思わないことです。従業員が取引先から金銭を受け取れるのはそれが業務に関連しているからであることがほとんどです。そして従業員が業務に関連して金銭を受け取っている場合、「本来会社が受け取るべき金銭」を従業員が横領しているだけだと外からみればみえるのです。このように認定されるリスクを避けるためにも、就業規則等で、たとえば「会社と利害関係のある取引先から、みだりに金品ならびに飲食などの饗応を受けたり、私事の事由で賃借関係を結ばないこと」などを従業員の遵守事項とするなど、会社としてリベートの受領を禁止していることを明確にし、従業員に周知徹底していきましょう。
鳥飼総合法律事務所 弁護士 西中間 浩
※ 本記事の内容は、2014年7月現在の法令等に基づいています。
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