連載 リスクコンシェルジュ~税務リスク 第34回 従業員の慰安旅行の費用を会社が負担した場合,福利厚生費になるか?
従業員の慰安旅行の費用を会社が負担した場合,福利厚生費になるか?
Q 当社は,マカオに2泊3日の慰安旅行を実施し(従業員は全員参加),その費用を全額負担しました(一人分約24万円)。当社は,この費用を福利厚生費として経理処理しましたが,税務署から同費用は従業員に対する「給与等」に当たり,当社はこの「給与等」につき源泉徴収義務を負担すると指摘されました。当社は,このような税務署の指摘に従うべきでしょうか。
A ご質問の費用は,国税庁の通達を形式的に当てはめると非課税のようにも思われますが,金額が少額ではないので,従業員に対する「給与等」に該当し,御社は源泉徴収義務を負うと思われます。
(説明)
1 通達の定め
最近,従業員の一体感を醸成し,親睦を図る目的で慰安旅行が復活しているようです。
ところで,慰安旅行を行った場合に会社が負担した費用は,従業員が受けた経済的利益として,原則として所得税法28条1項の「給与等」に該当し,会社は源泉徴収義務を負います(いわゆるフリンジ・ベネフィット)。
しかし,所得税基本通達36-30は,「使用者が役員又は使用人のレクリエーションのために社会通念上一般的に行われていると認められる」旅行等の費用を負担する場合における使用人等が受ける経済的利益については,課税しなくて差し支えないと定めており,これを受けた昭和63年5月25日の個別通達は,次のいずれの要件も満たしている場合には,原則として課税しなくても差し支えないとしています。
① 旅行期間が4泊5日(海外の場合には,目的地における滞在日数)以内のもの
② 参加する従業員等の数が全従業員の50%以上であること
2 少額か否かの判断基準
この個別通達の基準を形式的に当てはめると,御社が負担した費用は非課税(福利厚生費)であり,御社は源泉徴収義務を負担しないようにも思われます。
しかし,これらの通達の非課税の趣旨は,通常,慰安旅行において会社が負担する費用は少額であるという「少額不追求」の観点によるものであり,その費用の額が少額とは言えない場合には,やはり従業員に対する「給与等」に該当し,源泉徴収義務を負います。裁判例でも,設問のような事案において,会社が「給与等」の源泉徴収義務を負担するとしたものがあります(東京地裁平成24年12月25日判決)。
問題は,具体的にどの程度の金額であれば非課税と取り扱われるのかですが,この点につき,国税庁のタックスアンサーでは,以下のような具体例が示されています。
<事例1>
旅行期間 3泊4日
費用及び負担状況 旅行費用15万円(うち会社負担7万円)
参加割合 100%
課税or非課税 原則として非課税
<事例2>
旅行期間 4泊5日
費用及び負担状況 旅行費用25万円(うち会社負担10万円)
参加割合 100%
課税or非課税 原則として非課税
<事例3>
旅行期間 5泊6日
費用及び負担状況 旅行費用30万円(うち会社負担15万円)
参加割合 50%
課税or非課税 課税
少額か否かの基準にはなお不明確さが残りますが,慰安旅行の会社負担額については,以上の通達やタックスアンサー等を参考に,課税か非課税かを慎重に判断する必要があります。
鳥飼総合法律事務所 弁護士 橋本浩史
※ 本記事の内容は、2014年4月現在の法令等に基づいています。
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