連載 リスクコンシェルジュ~税務リスク 第28回 過年度の粉飾(仮装経理)と過大請求とでは税法上の扱いが違う?
過年度の粉飾(仮装経理)と過大請求とでは税法上の扱いが違う?
Q:過年度の粉飾決算や、顧客に対する過大請求が、当期に判明した場合、更正の請求で還付を受けることができますか?
A:仮装経理の場合には、制限付ですが更正と還付が予定されているのに対し、一定の過大請求の場合には、更正の請求が認められず、当期以後の損益を調整するなどの対応によらざるを得ない可能性があります。
[解説]
1.更正の請求
過年度の申告納税額が、何等かの理由で過大であった場合、「更正の請求」により課税庁による減額更正処分を求めることになります。
たとえば、「課税標準等若しくは税額等の計算が国税に関する法律の規定に従っていなかったこと又は当該計算に誤りがあったこと」により過大な申告納税があった場合(国税通則法23条1項1号)には、当初の法定申告期限から原則5年以内に限り、更正の請求をすることができます。
減額更正がなされると、差額は過誤納金として納税者に還付され、あるいは未納の税額に充当されます(国税通則法56条、57条)。
ただし、粉飾決算などの「仮装経理」による過大な申告・納付の場合は、減額更正による過誤納金(仮装経理法人税額)は直ちに還付せず、まず前事業年度の確定法人税額から還付し、残額は将来5年に渡り、各事業年度の法人税額から順次控除し、それでも残額がある場合、5年目の確定申告を待って全額を還付するとされています(法法135条)。直ちに還付はしないことで、粉飾決算を抑止する趣旨のようです。
2.過大売上計上の場合の更正の請求を制限する裁判例
過大な売上の計上により、過年度の納税額が過大であった場合、その要件を広めに捉えれば、更正の請求が認められる可能性が出てきます。
しかし裁判例は、過年度に資産を譲渡して未収の対価を益金に計上したが、後に債務不履行を理由に契約を解除したので、更正の請求により過年度の納税の返還を求めたという事例で、「課税標準、税額等に変動のない場合には、更正の請求も認められない」「法人の場合には、企業会計上、継続事業の原則に従い、当期において生じた収益と当期において生じた費用、損失とを対応させて損益計算をしていることから、既往の事業年度に計上された譲渡益について当期において当該契約の解除等がなされた場合には、右譲渡益を遡及して修正するのではなく、解除等がなされた事業年度の益金を減少させる損失として取り扱われている」ことを理由に、更正の請求を否定しました(横浜地裁昭和60年7月3日判決(一審)、東京高裁昭和61年11月11日判決(控訴審))。
また、近日の報道によれば、いわゆる過払金返還請求が相次いだことにより破綻した武富士による、過年度の税金の返還を求める訴訟で、上記と同様の理由で請求が棄却されたようです(東京地裁平成25年10月29日判決)。
3.粉飾(仮装経理)と過大請求でなぜ違う?
上記2の裁判例によると、更正→還付という流れは利用できず、当事業年度において過年度の過大な売上を損失計上し、欠損金が余るときは繰越欠損金の処理で対応することになりそうです。繰越欠損金の控除可能期間内に十分な黒字が出ないと、結局、税金は戻らないことになります。
他方で、1の仮装経理の場合、少なくとも5年経てば全額の還付があり得る等の点で、上記2の処理より有利な場合が生じてしまいます。
実感としては、「粉飾の場合は(制限付きとはいえ)更正と還付があるのに、なぜその他の過大請求では認められないのか?」という素朴な疑問が生じます。
また、実務上の論点として、上記1の仮装経理に含まれる場合と、上記2の処理の対象との線引きはどのように判定すべきか、という問題も生じそうです。
上記2の裁判例が挙げる「企業会計上の扱い」による説明からも、一応の線引きができるのかもしれませんが、実は、仮装経理の場合でも、会計上の処理としては特別損益を計上すること(当期の損益で調整すること)を前提とした裁判例があります(大阪地裁平成元年6月29日判決)。そうすると、会計上の扱いによる区分は難しいように思われます。
あるいは、過大売上計上当時における「所得」の有無から線引きする(違法な所得も、相手のいる取引があり、実際の収入(入金)があり得る場合は、税法上は当該過年度において適法な所得があったことになるので、更正の請求の対象でないが、相手がおらず、実際の収入があり得ない場合は、過年度においても所得がないので、仮装経理の場面として処理する、といった区分。)という考え方もできそうです。
鳥飼総合法律事務所 弁護士 島村 謙
※ 本記事の内容は、2013年12月現在の法令等に基づいています。
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