連載 リスクコンシェルジュ~税務リスク 第3回 税務署職員が作成した書面への署名・押印

第3回 税務署職員が作成した書面への署名・押印

 

 私が経営する法人が税務調査を受けています。調査が始まってから数日後に、税務署職員が作成した書面を見せられ、そこに代表者である私の署名と押印を求められました。
  その書面の内容は、税務調査の過程で税務署職員の質問に私が答えたというようなものでした。
  税務署職員の求めに応じて、この書面に署名・押印をしなくてはいけないでしょうか。

 

 税務署職員が作成した書面の内容に納得がいかない場合には、署名・押印をする必要はありません。

 

[解説]

  税務調査が行われた場合、税務署職員は会社の代表者や経理担当者などから聞き取ったことを書面にして、「内容を読んで確認した上で署名・押印をしてください。」と求める場合があります。

  この書面のタイトルはさまざまですが、たとえば、「質問応答書」、「質問てん末書」といったようなものです。

この書面には、税務調査の日時、質問をした税務署職員の氏名、回答をした者の氏名(会社の代表者や経理担当者等)などの他、税務署職員が行ったとされる「質問」と、会社の代表者などが行ったとされる「回答」が書かれています。

  納税者はこの書面に署名・押印することが義務だと思ってしまい、求められるままに署名・押印をしてしまうケースが多いようです。

しかし、税務署職員が作成した書面の内容に納得がいかない場合には、署名・押印をする必要はありません。

  その理由は次の3つです。

 

1.署名・押印をすることは法律上求められていません。

2.納税者が話した内容が必ずしも正確に書かれているとは限りません。

3.納税者にとって不利益な証拠を税務署に与えてしまう可能性があります。

  

税務署の職員が要求してきますから、署名・押印することが納税者の義務であるかのように思ってしまうようですが、法律上そのような義務は一切ありませんし、その内容は納税者が話したことが必ずしも正確に書かれているわけでもありません。つまり、納税者にとって不利益な内容が書かれてしまっている場合、その内容が誤りであるにも拘らず納税者が訂正を求めずに書面に署名・押印してしまえば、それは税務署に有利な証拠を与えてしまったことになり、その後、課税に不服があるとして争おうとしても、納税者は最初から不利な状況に置かれてしまうことになります。

したがいまして、税務署職員が作成した書面の内容に納得がいかない場合には、署名・押印をする必要はありません。

  税務調査においては、上記の書面に限らず、納税者が税務署職員から法律上の根拠のない書面の提出を求められたりすることがしばしばありますが、それを提出することによって思わぬ税務リスクを招くことにもなりかねませんので、慎重な対応が必要です。

 

鳥飼総合法律事務所 税務部長 高田貴史

※ 本記事の内容は、2012年9月現在の法令等に基づいています。

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