(2)不動産の信託
不動産を信託すると、その不動産の所有者は受託者となり、もとの所有者たる委託者はその所有権を失う。登記上も所有権は受託者に移る。このことについての委託者の抵抗感は相当なものがある。信託財産として不動産を信託すると、受託者はこれを登記しなければならない。この登記は通常の所有権移転の登記とは違って、信託契約の概要を信託目録として併せて登記することになる。この信託目録には、委託者・受託者と並び受益者や、残余財産の帰属者が掲載されることになる。だから、当該不動産の行く末は登記を見れば誰の目にも(つまり受益者や残余財産の帰属者以外の相続人等にも)明らかになる。ここで相続争いが前倒しされることになる。逆に言えば委託者の死後の相続が争いにならないように、当該不動産の承継者を委託者と相続人間で話し合い、合意された者がその不動産の所有者になるといったことを信託契約の内容とするのが筋である。
不動産を信託してこれを登記するというのは、ようは相続に関する争い(調整)を委託者=被相続人の生前にやるということだ。委託者の生前であれば、委託者の思いを直接相続人等に伝えることができる。委託者の死後はそれができない。だから、委託者の生前は争いが一時表面化してもそれが収まるところに収まる期待がある。死後はそうはいかない。
委託者が亡くなれば終了するタイプの信託は、存続期間がごく短いので(委託者には失礼ではある)、登記まで備えるのは登記費用がもったいないとの話もまれに聞く。信託内外の関係人に現在の財産の管理や委託者死後の分与について争いがないのだから、対抗要件など不要であるというわけだ。ただ、争いがないのは現時点でありそれが表面化するのは死後である。また、分別管理義務履行に必要な登記をしないのは、単純に、受託者の義務違反である。