民事信託の組成を依頼すべき人

 民事信託については、専門家にも一般市民にも関心が高まっている。民事信託のセミナーを覘くと、高齢者やその親族と思われる人たちで盛況な様子である。他方、いわゆる「専門家」と称する無資格者等による、民事信託の組成に警告がなされることも多くなってきた。2019年9月に出た東京地裁の信託の一部無効判決の影響もあるだろう。

 信託を業とする組織で長年働いてきた経験からすると、信託は難しいので、民事信託を考えている人は、原則的に弁護士に依頼すべきであると思う。個別性の強い、かつまた将来紛争の種を内包しがちな民事信託契約は、他士業者ではなく弁護士のフィールドである。新しい信託法は歴史が浅いから、条文の実務解釈の指針たるべき裁判例がほとんどない。士業でない人がトラブルを未然に防ぐ手立てが講じられるのか。トラブルが発生した時に対処できるのか。不安が残る。

 民事信託の契約書を作成するにあたり、一部の非法律職の人たちから、契約書は自分たちが原案を作っても、公正証書にするために公証人に見てもらうから安心である、少なくとも問題はない、との話を聞くことがある。そうだろうか。個々の公証人の能力を問題にするつもりはないが、とある県の税理士事務所を訪問した際、当該県では民事信託を「知っている」公証人は一人もいない、との話を聞いた。