連載 リスクコンシェルジュ~事業承継リスク 第22回  企業内承継

企業内承継

 

1.企業内承継の種類と特徴

 企業内承継というのは,親族外承継の1種で,①親族ではない役員や従業員への承継と,②外部からの人材の招聘の2つの方法があります。

 ①については,後継者となる役員等がオーナーとなる場合(所有と経営の一致)と,現経営者の親族に経営権を戻すことを前提にした中継ぎの場合のようにオーナーはそのままにして経営権のみ承継する場合(所有と経営の分離)とがあります。②についても,所有と経営を一致させる場合と分離したままとする場合が考えられますが,後者はM&Aの一環として行われるものといえ,一般的に②といえば,オーナー家が株式を保有しながら経営のみを外部人材を招いて行ってもらうという方法を意味します。

 企業内承継は,企業にとっては,親族内承継に比べて,後継者の選択の幅が広がるというメリットがあり,後継者にとっては,既に築き上げられた経営基盤を引き継ぐことができるというメリットがあります。しかし,同時に,関係者の理解,現経営者の保証や担保権の解除,後継者による保証,承継後の監督やサポ-ト等,事業承継を成功させるために克服すべき問題も多々あります。特に,後継者がオーナーとなる場合は,株式を譲り受けるための資金の調達の問題も生じます。

 以下,上記問題点のうち,いくつか取り上げて説明します。

 

2.関係者の理解

⑴ 企業内の他の役員・従業員の理解

  事業承継を成功させるためには,選ばれた後継者に事業を承継させることについて,企業内の他の役員や従業員の理解を得ることが重要です。企業内の役職員の場合は,同人が事業内容に精通し,能力・人格が社内で知られていることなどから,一般的に,従業員等の理解は得やすいといえます。それに対し,外部からの招聘の場合は,社内に後継者の基板がなく,また,同人が事業内容について精通しているとは限らないことから,従業員等の理解を得るのは難しいといえます。よって,外部からの招聘の場合は,承継前の一定期間,後継者に承継する企業の役員等を経験させるなどして,理解を得やすくする方策をとることが有益です。

⑵ 現経営者の親族の理解

  現経営者に子などの親族がいる場合に,その親族を差し置いて,第三者が後継者になるケースでは,当該親族と後継者の間に軋轢が生じ,事業に支障が出ることがあります。また,現経営者の相続人等の反対などにより,後継者への株式の譲渡が円滑に進まなくなることもあります。これらの不都合を回避するためには,現経営者が親族に十分な説明をすること,また,種類株式を利用して親族に配慮することや従業員持株会を利用して安定株主対策を講じることなど,早めに対策をとることが有益です。

⑶ 取引先の理解

  事業承継を円滑に進めるためには,企業内のみならず,外部の取引先の理解も重要です。取引先にしてみれば,経営者の交代は,取引継続の意思決定を左右するほどの重要事項であることが少なくありません。取引先に安心して取引を継続してもらえるよう,主要な取引先には,事業承継の方針や後継者について,早めに知らせることが必要です。

  特に,金融機関の場合,誰が経営者であるかということは,融資実行や継続の判断に大きな影響を与える事項ですから,会社の資金繰り等を考えれば,早々に事業承継の方針や後継者について知らせるべきです。

 

3.現経営者の保証や担保権の解除・後継者による保証

  中小企業が金融機関から事業用資金を借り入れる場合,一般的に,金融機関から経営者の個人保証や個人資産の担保提供を求められます。

  経営者が交代すれば,引退した経営者は個人保証等から解放されたいと考えますが,保証や担保設定の解除には金融機関の承諾が必要です。そして,金融機関は解除に応じるにあたり,通常,後継者の個人保証等を求めます。そこで,後継者が当該金融機関の要求に応えられるよう事前に準備をしておく必要があります。例えば,事業承継前に債務を圧縮する,後継者が担保として提供できる資産を形成できるように段階的に対策を講じる,金融機関と交渉し後継者の担保提供の負担を軽減することなどが考えられます。

 

4.株式譲受のための資金調達

   役員や従業員等の個人は,株式の買取資金を有していない場合がほとんどです。特に,優良企業の場合には株式の評価額は高額となり,後継者の自己資金だけで買取資金を準備することは難しいことが多いでしょう。そのような場合には,金融機関や投資ファンドのほか,「事業承継支援資金」制度の利用が考えられます。

 

鳥飼総合法律事務所 弁護士 堀 招子

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