連載 リスクコンシェルジュ~事業承継リスク 第10回 経営承継円滑化法 民法の特例 その3
経営承継円滑化法 民法の特例 その3
1 特例の効力の範囲
前回まで、経営承継円滑化法の民法の特例の概要、すなわち、後継者が自社株などを贈与などで取得した場合、遺留分の算定について民法の規定とは別の内容の合意ができること、及び、合意の具体的な内容やリスクについて説明しました。
これら遺留分算定に係る合意は、第三者に対する遺留分請求には効力がありません。その理由は、遺留分算定に係る合意により遺留分算定の基礎となる財産に参入される財産の範囲及び額が変更されることによって、合意の当事者でない第三者が利益・不利益を受けるのは相当でないからです。したがって、経営者が第三者に贈与や遺贈をした場合、遺留分算定に係る合意にかかわらず、民法の原則に戻って遺留分額を算出し、遺留分侵害がある場合には、その第三者に対して遺留分減殺請求することができます。
2 特例手続の流れ
遺留分に関する民法特例を利用するためには、経済産業大臣の確認及び家庭裁判所の許可を得ることが必要です。これらの手続を得なければ、遺留分算定の合意の効力が生じませんので、注意が必要です。
(1)経済産業大臣の確認
遺留分算定の合意がなされた場合、後継者はまず、除外合意や固定合意をした日から1ヶ月以内に経済産業大臣の確認を申請しなければなりません。具体的には、申請書に加えて、合意書面、合意日時点の対象会社の定款の写し、対象会社の合意日を含む年度の直前3事業年度の貸借対照表、損益計算書、事業報告書等の必要書類を添付して管轄の経済産業局に提出します。
経済産業大臣は、①当該合意が対象会社の経営の承継の円滑化を図るためになされたものであること、②合意日に申請者が円滑化法3条3項に規定する後継者であったこと、③合意日に後継者が合意の対象として議決権数が総株主の議決権の半数以下であったこと、④非後継者が取り得る措置の定めがあること、の4点について確認します。この手続では、比較的形式的要件の審査がなされます。
(2)家庭裁判所の許可
経済産業大臣による確認を受けたら、確認を受けた日から1ヶ月以内に、旧代表者の住所地の家庭裁判所に申立をする必要があります。経済産業大臣の確認の場合と同様、後継者が許可の申請を行う必要があります。この場合、申請書に加えて、経済産業大臣が作成した「遺留分に関する民法の特例に関する確認証明書」、合意書面、推定相続人全員の戸籍謄本等を添付して許可の申請を行います。
この手続では、家庭裁判所は当該合意が当事者全員の「真意」に出たものか否かが審理されます。ここでいう「真意」は、合意の意味を理解しているだけでなく、仙台経営者の不当な圧力がなかったか、合意の客観的合理性及び妥当性、代償の有無、諸般の事情を検討して判断されます。
家庭裁判所の審理の結果は、当事者全員に告知され、許可または却下であるかどうかを知ることができます。もし不服がある場合には、告知を受けてから2週間以内に許可の審判に対しては非後継者が、却下の審判に対しては当事者全員が不服を申立てることが可能です。
3 合意の効力の消滅
遺留分算定合意の効力が生じても、次の場合に効力が失われます。
まず、円滑化法10条に規定のある消滅原因として、経済産業大臣の確認の取消があった場合、先代経営者の生前に後継者が死亡、後見・保佐開始した場合、合意の当事者以外の者が新たに先代経営者の推定相続人となった場合(例えば、合意後に先代経営者の子が認知された場合など)、合意の当事者の代襲者が先代経営者の養子になった場合があります。
次に、その他の消滅原因として、推定相続人全員の合意による解除があった場合、非円滑化法4条3項にいう後継者の取りうる措置として解除権が行使された場合、錯誤無効、詐欺取消の場合が挙げられます。
なお、遺留分算定合意の後、家庭裁判所の許可が確定する前に先代経営者が死亡した場合、その時点で手続が終了し、特例の適用がなくなるので、注意が必要です。
鳥飼総合法律事務所
※ 本記事の内容は、2013年2月現在の法令等に基づいています。
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