連載 リスクコンシェルジュ~事業承継リスク 第3回 事業承継における事前対策の重要性
事業承継における事前対策の重要性
株式や事業用資産等を後継者に承継させるには、生前に売買や贈与によってこれを行ったり、あらかじめ遺言を用意しておいたりと、事前に対策を練っておくことが重要とされています。それはなぜなのでしょうか。
1 株式の承継
このような事前の対策を全く行っていないと、たとえば株式などの先代経営者の資産は、死亡後、相続人間の遺産分割によってその行く末が決まってくることになります。しかしながら、株式を遺産分割するとなった場合、事業承継という観点からみると次のような問題点が生じてきます。
ア 遺産分割後継者への自社株の集中が困難に
事業承継を成功させるには、自社株を後継者に集中させることが大事になってきます。というのも会社経営においては役員の人事権を握ることや、組織再編等会社としての重要な意思決定を円滑に行えるようにしておくことが重要となってきますが、そのためには少なくとも過半数、可能であれば3分の2以上の議決権を確保しておく必要があります。経営者として経営の実権を握るためには、かかる議決権が確保できるよう、できるだけ自社株を集中して保有しておきたいところです。
しかし、大株主である先代の株式の承継が遺産分割で行われるということになりますと、遺産分割を協議で行う場合、相続人全員の同意が必要となってきますので、そのような分割を実現することは難しくなってきます。たとえ生前、相続人間の関係が良好であったとしても、相続においてはお互いに利害関係が対立してきますので、同様のことがいえます。
また、相続人の協議で遺産分割がまとまらなかった場合、家庭裁判所に調停や審判を申し立てることも可能ですが、遺産分割は原則として法定相続分が基準となりますので、裁判所が後継者に有利な分割を認めてくれるとも限りません。
イ 自社株承継までに長期間を要し安定した経営を行うことが困難に
他の相続人全員の賛同が得られず家庭裁判所を利用するとなった場合、かかる手続きは現状では早くても半年、長くなると2年以上を要するといったものもざらですので、相当長期間、株式を集中して保有することができなくなってしまいます。
また、遺産分割が終了するまでは、一つ一つの株式を相続人全員が共有しているという扱いを受けることになります。たとえば300株を先代が持っていて3人の子供がこれを相続した場合、100株ずつ持っているという扱いではなく、3人で共有している株が300あるという扱いになるのです。共有株の議決権行使は、持分の過半数によって行使されることになっていますので、他の共有者2名から反対があると後継者の思い通りに議決権が行使できなくなってしまいます。これでは、後継者としては安定的で迅速な意思決定を行っていくことが望めなくなってしまいます。
2 先代の会社に対する貸付金等の金銭債権の承継
次に、先代が会社に対して貸付金等の金銭債権を有していた場合、事前の対策を練っておかずに死亡してしまった場合、どうなってしまうのでしょうか。
かかる金銭債権はわけることが簡単にできますので、今日の相続実務においては上で述べた株式とは異なり、遺産分割の対象とはならずにそのまま法定相続分に応じて分割相続される扱いになっています。
そうしますと、これを相続した後継者以外の相続人が、会社の財務状況を無視して会社に当該金銭債権の支払いを請求してくる可能性は十分にあります。かかる金銭債権の金額によっては、会社の資金繰りに悪影響を及ぼす可能性も生じてきます。このようなリスクが経営に与える影響は無視できません。
3 まとめ
以上みてきましたように、事前対策を行っていないと、株式については集中的な保有が難しくなり、また貸付金等の金銭債権については承継後の資金繰りに悪影響を及ぼしかねないことがわかると思います。事業承継においては、売買、贈与、遺言などの事前対策を行い、自社株や貸付金等の金銭債権の配分をあらかじめ決めておくことが、重要になってくるのです。
鳥飼総合法律事務所 弁護士 西中間 浩
※ 本記事の内容は、2012年9月現在の法令等に基づいています。
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