連載 リスクコンシェルジュ~税務リスク 第51回 株式会社の資本金の額を決める
株式会社の資本金の額を決める
Q 株式会社の設立に際し、資本金の額を決めるとき、どのような点を考慮するべきでしょうか。
A 創業期の事業資金を賄う等のためには、資本金の額は大きい方がよいといえます。他方で、資本金の額が大きくなるにつれて、税制を含め、享受できる法制上のメリットが少なくなります。資本金の額は、税理士等の専門家とよく相談して決めることが重要です。
(説明)
1. 設立払込みと「資本金」 会社設立に際し、株主となる者が会社に拠出した金額は、原則としてその全額が「資本金」となります。拠出額のうち、2分の1までの額は「資本準備金」とすることもでき、その場合は残額が資本金となります(会社法445条1項2項)。このようにして算定された数字を、「資本金」と呼びます。
2. 安定した事業経営のためには自己資本は大きい方がよい 資本金や資本準備金に、剰余金(会社が留保した利益がその中心です。)等を加えた額を、一般に「自己資本」や「純資産」などと呼びます。自己資本の額は、債権者などの第三者に対する返済義務を負わない資金である、という特徴があります。 創業間もない会社は、事業が軌道に乗るまでの間、赤字が続くのが通常ですから、黒字転換するまでの間の支出を賄う運転資金が必要です。運転資金の調達手段としては、株主から資本の出資のほか、金融機関からの借入があります。 借入の場合、返済義務と利息の支払義務が生じます。また、代表者の連帯保証を求められる場合は未だに多く、万一、弁済が出来なくなった場合、会社と同時に代表者も破産するリスクが生じます。したがって、先行き不透明な創業期には、できるだけ借入に頼らず、自己資本により運転資金を賄うことが賢明です。 創業期に確保する運転資金の額は、黒字転換により収支が安定するまでに要する事業資金の総額が目安となります。この意味で、自己資本の金額は大きい方がよく、自己資本の中心である資本金の額も大きい方がよいといえます。
3. 資本金の額と法制上のメリット ところが、法制上のメリットを考慮すると、資本金の額は、必ずしも大きい方が良い、とはいえなくなります。(1)租税法 たとえば、租税法上、資本金が1,000万円未満の場合、設立以後2事業年度は消費税が原則免税となります。また、資本金が1億円以下の場合、中小法人等として、①法人税の軽減税率(22%)、②交際費の損金算入、③少額減価償却資産の全額損金算入等、種々の場面でメリットがあります。(2)会社法 会社法上、資本金の額が5億円以上(又は負債の合計額が200億円以上)の会社を、「大会社」といいます。大会社に該当すると、①会計監査人(公認会計士又は監査法人)の設置義務(会社法328条)、②内部統制組織の整備(決議)義務(同348条3項4号4項、362条4項6号5項)、③連結計算書類の作成義務(有価証券報告書提出会社に限る。会社法444条3項)などの負担が生じます。 以上のほかにも、たとえば下請法(下請業者に対する支払い遅延の防止などを定めて、下請業者を保護する法律)では、資本金の額が相対的に小さい会社を保護するなどしています。概して、資本金の額は小さい方が、法制上の様々なメリットを享受できる、といえます。
4. まとめ 以上のように、安定した事業運営の観点からは、資本金の額は大きい方がよいのですが、資本金の額が大きいと、受けられる法制上のメリットが減ってしまいます。資本金の額を決めるに際しては、税理士等の専門家と相談し、種々の要素を考慮して判断することが肝要です。
鳥飼総合法律事務所 弁護士 島村謙
※ 本記事の内容は、平成26年3月末現在の法令等及び税制改正大綱に基づいています。
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