当事務所の取扱事例(税務訴訟)の紹介~永代地上権が設定された土地の固定資産税の納税義務者が所有者か地上権者かが問題となった事例~
詳細情報
1 はじめに
当事務所は、富山県滑川市にある土地の所有者を代理して、滑川市の同所有者に対する固定資産税の賦課処分等の取消を求め、提訴しました。第一審、控訴審ともに当方の請求を認め、固定資産税の賦課処分等の取消を命じました。課税庁の滑川市は、これを不服として、最高裁に上告及び上告受理申立をしましたが、最高裁は令和5年4月13日、滑川市の上告棄却及び上告不受理の決定を下し、控訴審の判決が確定しました。
本件は、存続期間を「永代」とする地上権の設定された土地の固定資産税の納税義務者が問題となったものであり、先例的意義が大きいものです。本件については、令和5年4月15日の北日本新聞(32面)でも取り上げられました。
2 裁判の経過
① 富山地方裁判所令和4年1月12日判決(令和2年(行ウ)第3号)
② 名古屋高裁金沢支部令和4年11月30日判決(令和4年(行コ)第4号)
③ 最高裁第一小法廷令和5年4月13日決定(上告棄却、上告不受理)
3 事案の概要
⑴ 原告は、富山県滑川市にある9筆の土地(本件各土地)の所有者です。原告は、同市から、本件各土地の所有者であることを理由に、本件各土地の平成30年度の固定資産税を課されました。
⑵ 本件各土地には、明治33年3月1日付けで存続期間を「永代」とする地上権が設定され、その旨登記されていました。
⑶ 地方税法343条1項は、固定資産税の納税義務者を、原則として固定資産の所有者と定めています。しかし、質権又は百年より永い存続期間の定めのある地上権の目的である土地については、その質権者又は地上権者を納税義務者とする旨定めています。
⑷ 原告は、本件各土地に設定された存続期間を「永代」とする地上権は、「百年より永い存続期間の定めのある地上権の目的である土地」にあたるため、本件各土地の固定資産税の納税義務者は、同各土地の地上権者であると主張し、被告(滑川市)の自らに対する固定資産税の賦課処分等の取消しを求めました。
4 争点
本件の主たる争点は、本件各土地が「百年より永い存続期間の定めのある地上権の目的である土地」(地方税法343条1項)にあたるといえるか否かです。本件各土地がそのような土地にあたるのであれば、本件各土地の固定資産税の納税義務者は、地上権者であり、所有者である原告ではないため、被告が原告に課した固定資産税の賦課処分等は取消されるべきことになります。
5 裁判所の判断
⑴ 第一審判決の要旨
第一審は、「永代」とは、その通常の意味からすれば、永久、すなわち当該地上権が100年以上継続して存続することを意味するものであると解されるから、本件各土地の登記簿の記載からは、本件各土地は、「百年より永い存続期間の定めのある地上権の目的である土地」であるとして、原告の請求を認容しました。
⑵ 控訴審判決の要旨
控訴審は、本件地上権の登記手続がされた明治34年ないし明治43年当時の状況について事実認定をした上で、本件地上権の設定当事者は、「永代」との文言によって本件地上権の存続期間を永久と定めることを意図していたのであり、単に「長い期間」というような漠然とした期間を定めることを意図していたものではないとして、第一審と同様、本件各土地は、「百年より永い存続期間の定めのある地上権の目的である土地」にあたることを理由に、滑川市による控訴を棄却しました。
⑶ 最高裁決定の要旨
最高裁は、滑川市の上告を棄却するとともに上告不受理の決定をしました。
6 本件の意義
滑川市では、明治時代に起こった「地上権騒擾」ともいうべき地主と借地人間の対立、交渉を経て、全国的にみても極めて珍しい存続期間を「永代」とする地上権が設定されたという経緯がありました(『滑川町誌 上巻』参照)。
本件では、このような経緯で本件各土地に設定された「永代」地上権が、「百年より永い存続期間の定めのある地上権」にあたるかどうかが問題となりました。
地上権の存続期間については、永小作権のような存続期間の上限はなく(民法278条1項参照)、存続期間を永久とする地上権の設定も許されると考えられています(大判明36年11月16日民録9・1244)。しかし、「永代」地上権が、地方税法343条1項の「百年より永い存続期間の定めのある地上権」にあたるかどうか、すなわち、その場合の土地の固定資産税の納税義務者が問題となった判例はこれまでありませんでした。
本件は、本件各土地に設定された「永代」地上権が、「百年より永い存続期間の定めのある地上権」にあたると判断されたものであり、先例的意義が大きいといえます。
なお、滑川市内には、本件各土地のような、「永代」地上権の設定された土地が約600筆存在すると言われています。そのため、今回の判決が同市の固定資産税の徴収実務に与える影響も大きいと考えられます。
以上