連載 リスクコンシェルジュ~知財関連リスク 第21回 パテントトロール対策に大きな動き

 パテントトロール対策に大きな動き

 

近年、日本企業がその保有する特許を外国企業に売却する事例が増加しています。

このことは、知的財産の国外流出の大きな一因となることはもちろんですが、売却先が「パテントトロール」である場合には、日本企業が実際に損害賠償請求訴訟を起こされるリスクが格段に高まることとなります。ここで、パテントトロールとは、特許権を、製品の製造等の形で実施するためではなく、ライセンス料や損害賠償金を得るために買い集める企業を指します。企業を無用な訴訟リスクにさらすものとして国境を越えて大きな問題となっています。

こうした特許流出の背景には、厳しい経営環境の中、膨大な研究開発投資によって蓄積されてきた国内の知的財産がリストラに伴って売られているという現状があります。知財立国を成長戦略の柱に据える我が国としてはゆゆしき事態です。

 

こうした状況の中、先日、官民出資の投資ファンドである株式会社産業革新機構などによって、日本企業が保有する休眠特許(使用されていない特許)を買い取り、他の日本企業に売却するファンドが設立されました。特許の海外流出を防ぐとともに、こうした休眠特許を集約して、適正な収益確保等に活用していくことを狙いとしています。

これにより、日本の高品質な特許が海外のパテントトロールによって大量に買い付けられることを防止することができると考えられています。

 

パテントトロールに関しては、オバマ大統領も去る6月4日に出された声明の中で、パテントトロールを取り締まる対応策を公表しています。対応策には、パテントトロールが特許を隠しておいて、他企業が特許を侵害するのを待って損害賠償請求するケースを抑止するため、保有特許に関する情報を定期的に開示するよう命じるほか、特許が過度に広範に承認されるのを防ぐために特許庁職員の教育を強化すること、などが含まれます。

過去2年間に米国内でパテントトロールによって提起された損害賠償請求訴訟は3倍にも増えており、全特許訴訟の6割にも上るようになっています。今回の実施策は、こうしたパテントトロールが跋扈するという状況を抜本的に是正するというホワイトハウスの断固たる態度の表れということができます。

 

国境を越えて猛威を振るうパテントトロールに対するこうした取り組みによって、開発者たちが無用な訴訟リスクにさらされることなく、真の知的財産の育成がますます促進されることが期待されます。

鳥飼総合法律事務所 弁護士 渡辺 拓

※ 本記事の内容は、2013年8月現在の法令等に基づいています。

関連するコラム