連載 リスクコンシェルジュ~知財関連リスク 第12回 自炊代行訴訟について
第12回 自炊代行訴訟について
1.自炊代行業者に対し作家7名が提訴
浅田次郎氏、東野圭吾氏、林真理子氏、弘兼憲史氏等の著名な作家7名が原告となって、スキャン代行業者7社に対し、原告らの作品の複製行為の差止を求める訴訟が2012年11月27日、東京地方裁判所に提起されました。今年2013年1月21日、この訴訟の第1回口頭弁論が東京地裁で開かれ、スキャン代行業者のうちの1社が自炊代行行為を中止して、謝罪、賠償金の支払いの意思を表明しました。
2.自炊代行と自炊代行訴訟の経緯
紙の本や漫画を裁断し、スキャナで読み込んだ上で電子データにし、自ら電子書籍化する行為を「自炊」といいます。書籍の裁断及びスキャンには、ある程度の機材と技術が必要なため、個人に代わって自炊を行う業者が2011年頃から増えました。
2011年9月、出版社と作家・漫画家がこれら自炊代行業者に対し、著作権者が許諾していない作品については、どうするつもりなのか質問状を送付したところ、「今後も依頼があればスキャン事業を行う」と回答した2事業者に対し、2011年12月、上記作家7名から差止を求める訴訟が提起されました。この裁判では、被告の会社が解散したため、原告が請求を認諾し、これにより実質的な原告の勝訴という形で訴訟が終わりました。
しかし、明確に判決でスキャン代行行為が著作権侵害であると認められたわけではなかったため、2012年になっても自炊代行を行う業者はなくなりませんでした。そこで、判決を得ないと自炊代行業者を一掃できないとして、今回の訴訟に至ったのです。
3.自炊と自炊代行の著作権法上の問題点
著作物を著作権者に無断で複製することは著作権21条の複製権侵害に当たります。そして、書籍をスキャナで読み込んで電子データにすることも複製になりますので、著作権侵害となる可能性があります。
ただし、私的に使用する目的で複製することは著作権法上、例外的に著作権侵害に当たらないとされています。ですので、自炊を私的な目的で自ら行うだけであれば、著作権法で認められている私的複製の範囲内の行為といえ著作権侵害にあたりません。しかし、私的使用目的の複製を認めた著作権法30条1項では、「使用する者」が複製できると規定されているため、たとえ私的利用が目的であっても代行業者による複製は、私的使用目的の例外の場合に当たらず、著作権侵害になる、との解釈が可能です。
本件で原告らは、著作権者である作家らに無断で代行業者が個人に代わり紙媒体の書籍を電子書籍化するのは、私的複製の範囲を超えて著作権法21条の複製権の侵害に当たる、と主張しています。
4.電子書籍の権利処理との関係
本件訴訟がどのようになるのか、今後の訴訟の行方に注目する必要がありますが、電子書籍が消費者のニーズに適うほど十分に揃わず、そのため消費者が自炊せざるをえないことは現状としてあります。したがって、電子書籍化の権利関係を契約等で明確化した上で、出版社等が電子書籍を充実させることも重要な課題となると考えられます。
以上
鳥飼総合法律事務所
※ 本記事の内容は、2013年2月現在の法令等に基づいています。
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