リスクコンシェルジュ~知財関連リスク 第2回 職務発明制度とリスク

職務発明制度とリスク

 

1.職務発明制度に潜むリスク

 現在,多くの会社において職務上発明が行われていますが,従業者がその対価を求めた場合,会社はその支払いを行わなければならない可能性があります。職務発明の対価について,青色発光ダイオード事件第1審判決では200億円の支払いが認容され(ただし,控訴審において約8億円で和解が成立),日立製作所事件控訴審判決では約1億3000万円の支払いが認容されています。このように職務発明の対価は,高額になる可能性があり,会社に内在する大きなリスクです。

 今回は,職務発明制度について紹介をし,会社のとるべき対応策について検討をしたいと思います。

 

2.職務発明制度及び発明の対価を巡る争い

 職務発明とは,①従業者が行った発明が,②その性質上使用者等の業務範囲に属し,③発明をするに至った行為が従業者の現在または過去の職務範囲に属する発明のことを指します。

 特許を受ける権利は,原則として発明者である従業者に帰属します。しかし,従業者が行った発明が職務発明である場合には,会社はその発明を当然に実施することができます。また,会社は,契約や勤務規則等で定めておくことで,特許を受ける権利を取得することができます。ただし,会社が従業者等より特許を受ける権利を取得した場合には,会社は従業者に「相当の対価」を支払わなければなりません。このように,職務発明の制度は,会社,従業者の双方の保護を図っています。

 現状ではほとんどの会社において,職務発明規程が定められ,対価について規定がなされています。しかし,「相当の対価」については,たとえ会社が,職務発明規程に基づいて従業者に対して補償金の支払いを行っていたとしても,後日,その補償金の額が「相当の対価」の額に満たないと判断された場合には,会社はその不足額を支払わなければならないと考えられています。この「相当の対価」をめぐって,近年,多くの争いが起きました。青色発光ダイオード事件や日立製作所事件を含め,1000万円を超える対価額を認めた裁判例は,過去10年間で10件にのぼります。

 

3.会社として注意すべき点

 では,職務発明について,会社としてはどのように対応をすれば良いのでしょうか。

 まず,職務発明規程を整備していない会社においては,コンプライアンスの観点から直ちに規程の整備を行うべきです。

 次に,既に職務発明規程がある会社において,規程の改訂を行う場合には,従業者と十分に協議を行い,改訂手続きに不備がないように気をつけるべきです。実務上は,会社と従業者とで意見に相違がある場合には,直ちに手続きを打ち切るのではなく,協議が膠着状態になるまでは,誠実に説明を行うことが多いです。また,会社としては,従業者との間の協議の状況や従業者からの意見の聴取の状況について,記録を残しておくべきです。

 さらに,従業者との間で個別に対価の支払いに関する契約を締結している場合には,従業者との間で充分に話し合いを行うと共に,対価の額が過度に低額とならないよう注意する必要があります。

 

4.職務発明制度の見直し

 職務発明制度については,現在,平成25年度以降の法制化を目指し,再度の見直しが検討されています。見直しが検討されている理由として,研究開発のグローバル化が進んでいるため,各社の知的財産戦略の経営判断にも迅速化が求められていますが,現行制度では対価調整に時間がかかることが挙げられます。また,裁判例では,対象となる製品の売上高のほか,超過利益,対象となる発明の寄与度や使用者等の貢献度を勘案して対価の計算が行われていますが,特許を多数抱える会社にとっては,同様の計算を行うことは大きな負担となります。

前述したように,職務発明とは,従業者が発明を行うインセンティブと,使用者の発明への投資へのインセンティブとのバランスをとった制度です。職務発明制度のあり方は,その国のその時の産業政策に直接関わるものであり,慎重な検討が必要となるものと考えられます。

鳥飼総合法律事務所

※ 本記事の内容は、2012年9月現在の法令等に基づいています。

 

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