会社法QA 第2回 組織再編
※ 本連載は平成17年に「新会社法QA」として掲載された内容です。その後の改正はこちらをご覧ください。
【テーマ】 組織再編
【解説】
1 新会社法は合併対価を柔軟化した?
新会社法は、事業の再構築の必要性や買収・事業統合等を含む企業活動の国際化の流れを考慮し、企業価値向上のための組織再編行為の選択肢を増やす必要性等を考慮し、吸収分割、株式交換と共に吸収合併において対価を柔軟化し、消滅会社の株主に対して、存続会社の株式だけでなく、金銭その他の財産を交付することを認めることとしました(749条1項2号、751条1項3号)。ただし、会社法施行後1年は、合併の対価は株式に限定されます(会社法附則4項)。
2 合併の対価にはどのようなものが認められるか
会社法は、対価について金銭その他の財産であれば足りるとしています(749条1項2号、751条1項3号)。ただ、その対価は消滅会社株主に株式数に応じて交付するので(749条3項、751条3項)、それに適した財産である必要はあります(社債や新株予約権でもよいわけです)。ただ、対価として選択された財産によって、消滅会社の手続に異なる点があることは注意が必要です。
すなわち、[1]消滅会社が種類株式発行会社でない場合、原則株主総会の特別決議が必要であり、例外として対価が譲渡制限株式等であるときは特殊決議、対価が持分会社の持分等であるとき総株主の同意が必要です。また、[2]消滅会社が種類株式発行会社である場合、原則特別決議が必要であることは同じですが、例外として対価が譲渡制限株式等であるとき、特別決議に加えて種類株主総会の特殊決議、対価が持分会社の持分等である場合、特別決議に加えて種類株主全員の同意が必要です(783条、309条)。なお、新会社法は、一定の事項(剰余金の配当等)につき権利内容等の異なる株式を発行することを認めていますが(「株主平等原則」の修正)、この株式が種類株式です(108条1項)。
3 決議の要件
特別決議の要件は、当該株主総会で議決権を行使することができる株主の議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した当該株主の議決権3分の2以上の賛成です。この定足数は定款で軽減可能です。特殊決議の要件は、当該株主総会で議決権を行使することができる株主の半数以上であって、当該株主の議決権3分の2以上の賛成です。
【質問】
A株式会社とB株式会社(≠種類株式発行会社)は、A社を存続会社とする吸収合併をします。B社の既存株主には、A社の譲渡制限株式が交付されるようです。当社はB会社の大株主として合併に反対なのですが賛成の株主も多く、会社側は、議決権を行使できる株主の半数以上、当該株主の議決権の3分の2以上の賛成は集められないようですが、議決権を行使できる株主3分の1以上の出席と、出席予定株主の議決権3分の2以上の賛成はぎりぎり得られるようです。このような状況で当社が反対しても合併のための株主総会決議は成立してしまうのでしょうか。
【選択肢】
[1] 成立する。
[2] B社が、特別決議の定足数を軽減する定款規定がある場合のみ、成立する。
[3] 成立しない。
【正解】 [3]
【解説】
吸収合併において、消滅会社における合併の決議は、原則として特別決議が必要です(783条1項、309条2項12号)。
特別決議については、平成15年改正前商法では、総株主の議決権の過半数または定款に定める議決権の数を有する株主が出席し、その議決権の3分の2以上に当たる多数をもって行うことを要件として定められており、特別決議の原則的な定足数や決議要件は新会社法でもほぼ同様の規定がおかれています(309条2項)。
しかし、平成15年4月の商法改正により、特別決議の定足数・決議要件は原則従来どおりとしつつ(平成15年改正後商法343条1項)、特別決議においても、普通決議と同様に定款の定めで定足数を軽減することができるようになりました。ただし、軽減する場合は、総株主の議決権の3分の1未満にすることはできないとされていました(平成15年改正後商法343条2項)。
新会社法においても、定款による定足数の軽減が認められる点は変更がないので(309条2項)、定款変更がされている場合、特別決議は成立する可能性が高いことになります。他方、定款変更がされていない場合特別決議の定足数の要件は法文の原則どおりですので、当該株主総会で議決権を行使することができる株主の議決権の過半数を有する株主が出席することが難しい以上、特別決議は成立しません。
そうすると、[1]は誤りで[2]が正解とも思われます。
しかし、消滅会社の合併に関する株主総会決議の手続は、原則として特別決議ですが、例外もあります。本件でB社は種類株式発行会社ではないので、本件のように消滅会社の株主に譲渡制限株式を交付する場合、特殊決議が必要です(783条1項、309条3項2号)。特殊決議の要件は、定款で軽減できません。
本件では、議決権を行使できる株主の半数以上、当該株主の議決権の3分の2以上の賛成は集められないとのことですので、特殊決議は成立しません。
従って正解は[3]です。
※ 本記事は平成17年に「新会社法QA」として掲載されたものです。その後の法改正はこちらをご覧ください。
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