会社法QA 第8回 株主代表訴訟
※ 本連載は平成17年に「新会社法QA」として掲載された内容です。その後の改正はこちらをご覧ください。
【テーマ】 株主代表訴訟
【解説】
1 株主代表訴訟の対象に会計参与、会計監査人が追加されました。
現行法では、株主代表訴訟の対象は、会社の取締役や監査役に対する責任追及等の訴えとなっていましたが、会社法においては、新設された会計参与や会計監査人に対する責任追及等の訴えも対象として追加されました。
2 株主代表訴訟を提起できない場合が定められました。
会社法では、責任追及等の訴えが当該株主又は第三者の不正な利益を図り又は当該株式会社に損害を加えることを目的(以下「図利加害目的」といいます)とする場合には、責任追及等の訴え提起を請求することができないことが明示されました(会社法847条1項但書)。なお、この場合の図利加害目的を立証する責任は、会社又は被告が負います。
3 株式交換・株式移転等によって原告適格を喪失することがなくなりました。
株主代表訴訟中に株式交換・株式移転等がなされて、原告が当該会社の株主でなくなった場合には、原告適格がなくなり、訴訟を続けることができない、とするのが商法下での判例でした。会社法では、そのような形での原告適格の喪失を見直し、原告が株式交換・株式移転によって当該会社の親会社の株主となった時や合併により新設会社・存続会社等の株主となった時には、訴訟を追行することができることになりました(会社法851条)。
4 提訴の請求方法が具体的に定められました。
会社法では、株主が会社に対し提訴を請求する場合には、[1]被告となるべき者、[2]請求の趣旨及び請求を特定するのに必要な事実を記載した書面等を会社に提出しなければなりません(会社法施行規則217条)。
5 不提訴理由の通知制度が新設されました。
株主は、株主代表訴訟を提起する前に、会社に対して、責任追及等の訴えを提起するよう請求し、請求の日から60日以内に会社が責任追及等の訴えを提起しないときに初めて株主代表訴訟を提起することができますが、会社が提訴しない場合、株主は責任追及等の訴えを提起しない理由を書面等で通知するよう請求することができるようになりました(会社法847条4項)。不提訴理由の通知には、[1]株式会社が行った調査の内容、[2]請求対象者の責任又は義務の有無についての判断、[3]請求対象者に責任又は義務があると判断した場合において、責任追及等の訴えを提起しないときは、その理由を記載しなければなりません(会社法施行規則218条)。
【質問】
私は、甲社の監査役をしておりますが、株主から「代表取締役Aの言動で私は傷ついたので、損害賠償請求の訴えを提起するよう請求いたします」と書かれた書面を受け取りました。これは会社の問題ではないので何も対応しないつもりですが、法律的に何か問題になりますか。
【選択肢】
[1] 特に問題とはならない。
[2] 調査しないことが、監査役の任務懈怠となる。
[3] 不提訴理由を通知しないことが違法となる。
【正解】 [1]
【解説】
1 提訴請求の対象
株主が、会社に対し、提訴請求できるのは、会社の取締役や監査役、会計参与、会計監査人(以下「取締役等」といいます。)に対する責任追及等の訴えです。したがって、会社が取締役等に対し、損害賠償請求などの訴えを提起できるものでなければなりません。
2 調査義務
監査役等に調査義務が生じるのは、「請求を特定するのに必要な事実」が真実であれば、「被告となるべき者」に対して「請求の趣旨」として挙げられている責任を追及できるものである場合に限られると考えられます。すなわち、提訴請求の書面に記載された事実を前提とした場合に、その紛争が[1]会社対取締役等の場合であって、[2]訴えることが可能である必要があると思われます。
紛争の構図が会社対取締役等でない場合には、そもそも会社は取締役等を相手として提訴できませんので、調査義務の前提を欠くと思われます。また、例えば、既に判決によって取締役に責任がないことが確定している場合のように、提訴自体できないような場合にも同様に調査義務を欠くと思われます。どちらも、調査するまでもなく、提訴できないことは明らかであるからです。もちろん、調査しなければ、当事者及び提訴可能性が判断できない場合には、調査が必要になるでしょう。
3 不提訴理由の通知義務
不提訴理由の通知は、提訴請求をした株主から通知の請求を受けた場合に行えば足ります。また、提訴請求が適法な場合にのみ、不提訴理由の通知義務が生じます。したがって、不提訴理由を通知するよう請求がなされない場合や、提訴請求が不適法である場合には、不提訴理由を通知する必要はありません。
4 【質問】の場合
【質問】の場合、株主が提訴請求してきたのは、株主と代表取締役であるAとの間の紛争です。株主の「代表取締役Aの言動で私は傷ついた」という事実が真実であっても、会社が損害賠償請求等の訴えに係る訴訟を提起すること自体できません。したがって、監査役に調査義務は生じないと考えられます。
また、質問では、株主が不提訴理由の通知を請求したかどうか定かではありませんが、不提訴理由の通知を請求していない場合はもちろん、不提訴理由の通知を請求された場合にも、そもそも会社と取締役等との間の訴えではない訴訟を対象とした提訴請求は不適法であり、不提訴理由の通知は不要と考えられます。
したがって、正解は[1]です。
※ 本記事は平成17年に「新会社法QA」として掲載されたものです。その後の法改正はこちらをご覧ください。
※ 連載全記事にはこちらからアクセスできます。
投稿者等 | |
---|---|
業務分野 |
関連するコラム
-
2024.12.20
奈良 正哉
ホンダ日産経営統合
ホンダと日産は経営統合する方向だ。事実上ホンダによる日産の救済だろう。 日産は、スカイラインやフ…
-
2024.12.19
奈良 正哉
政策株売却金で投資
東京海上は政策保有株式の売却金を戦略的な投資に当てている。あらたに建設コンサルティング会社を買収し…
-
2024.12.16
奈良 正哉
アクティビストの保有期間
日経に主要アクティビストの平均投資期間が掲載されている(12月5日)。2~3年が多いようだ。そんな…
-
2024.12.04
奈良 正哉
野村証券社員強盗殺人未遂・放火
野村証券の元社員が、顧客への強盗殺人未遂・放火で起訴された。これを受けて野村の社長以下幹部役員が自…
青戸 理成のコラム
-
2011.01.01
青戸 理成
会社法QA 第12回 役員の説明義務
※ 本連載は平成17年に「新会社法QA」として掲載された内容です。その後の改正はこちらをご参照くだ…
-
2011.01.01
青戸 理成
会社法QA 第4回 株主総会の招集手続
※ 本連載は平成17年に「新会社法QA」として掲載された内容です。その後の改正はこちらをご覧くださ…
-
2011.01.01
青戸 理成
会社法QA 第28回 計算書類と監査役の計算書類の監査
※ 本連載は平成17年に「新会社法QA」として掲載された内容です。その後の改正はこちらをご覧くださ…
-
2011.01.01
青戸 理成
会社法QA 第24回 端株制度の廃止と単元株制度
※ 本連載は平成17年に「新会社法QA」として掲載された内容です。その後の改正はこちらをご覧くださ…