会社法QA 第12回 役員の説明義務
※ 本連載は平成17年に「新会社法QA」として掲載された内容です。その後の改正はこちらをご参照ください。
【テーマ】 役員の説明義務
【解説】
1 説明拒否事由~「説明をするために調査をすることが必要である場合」に注意!
旧商法と会社法で、株主総会における取締役及び監査役(以下合わせて「役員」といいます。)の説明を拒否できる場合に実質的な大きな変更はありません。旧商法においては、[1]説明を求められた事項が会議の目的事項に関しないとき、[2]説明をすることによって株主共同の利益を著しく害するとき、[3]説明をするのに調査を要するとき、が例示として挙げられ、「その他の(説明を拒否する)正当の事由あるとき」、と包括規定が置かれていました(旧商法237条の3)。会社法においては、[1]~[3]以外に、[4]説明をすることにより株式会社その他の者(説明を求めた当該株主を除く。)の権利を侵害することになる場合、[5]株主が当該株主総会において実質的に同一の事項について繰り返して説明を求める場合、が例示として追加され、旧商法と同様に包括規定が置かれています(会社法314条但書、会社法施行規則71条)。なお、[3]を理由に説明拒否できない場合として、旧商法では、書面による求説明事項の事前通知があった場合のみを規定していましたが(旧商法237条の3第2項)、会社法では、「当該株主が株主総会の日より相当期間前に当該事項を株式会社に通知した場合」(口頭でもよい)と「説明をするために必要な調査が著しく容易である場合」(会社法施行規則71条1号)とが規定された点には、注意が必要です。
2 説明義務の範囲~会社法によって新たに認められた開示事項に注意!
説明義務の範囲も、旧商法下と同様に、事業報告、計算書類の内容、附属明細書、参考書類に記載されるべき事項などが目安とされるという解釈に変更はないと思われます。ただし、会社法では、事業報告や参考書類について、より充実した開示が求められているため、説明義務の範囲も変わってきます。特に本年の株主総会での議案に関する説明義務に関しては、経過措置により開示義務はないが会社法上参考書類に本来記載されるべき事項となっている事項について、説明義務の範囲内であると解される可能性がありますので、会社法によって新たに認められた参考書類の記載事項には注意が必要です。会社法上記載されるべき事項になっている以上、開示しなくてもよいからといって当然に説明義務の範囲から外れるとは限らないからです。
【質問】
本年の投資家向け説明会で株主Aから質問(説明義務の範囲内の事項)が出て、即座に答えられなかったため、「調査しておきます。」と返答しました。その後、本年の株主総会で株主Bから同じ質問が出ました。調査をして答えられるように準備はしていたのですが、総会の会場に資料を準備するのを忘れて、その場では即答できない状況になりました。「調査が必要な事項」として説明を拒否することはできないでしょうか。
【選択肢】
[1] 調査が著しく容易であるため、拒否できない。
[2] 事前に通知があった事項として拒否できない。
[3] 「調査が必要な事項」として拒否することはできる。
【正解】 [3]
【解説】
1 調査をすることが必要である場合
株主が株主総会で説明を求めた事項について、説明をするために調査をすることが必要な場合は、役員は説明義務を負いません(会社法314条、会社法施行規則71条1号)。ただし、「当該株主が株主総会より相当の期間前に当該事項を株式会社に対して通知した場合」(会社法施行規則71条1号イ)と「当該事項について説明をするために必要な調査が著しく容易である場合」(会社法施行規則71条1号ロ)には、もう一度原則に戻って説明義務を負うことになります。
2 「当該株主が株主総会より相当の期間前に当該事項を株式会社に対して通知した場合」
会社法施行規則71条1号イの要件は、[1]当該株主が、[2]株主総会より相当期間前に、[3]株式会社に対して、[4]当該質問事項を通知していること、です。
[1]の要件に関連して、株主から事前に通知のあった事項について、通知をした株主とは別の株主が質問した場合どうなるか、ですが、条文の文言上「当該株主が」となっていることから考えて、理論的には説明義務を負わないと解されます。ただし、実務的には、事前に通知があった事項については説明できる準備をしておくのが通常でしょうから、説明を拒否することは稀でしょう。なお、事前に通知があった場合でも、株主総会で実際に質問がなされなければ、説明する義務はありません。
[2]の要件の「相当期間」については、調査に必要とされる期間であって、特に決まった期間があるわけではありません。通知された事項の内容に応じて相当期間が決まります。
[3]の要件については、従来は取締役や監査役に通知してもよいと考えられていましたが、会社法においては、明文で「株式会社に対して」通知することになったことから、株式会社宛又は代表取締役宛に通知する必要があるのではないかと思われます。
[4]の要件については、旧商法では、通知の方法は書面に限られていましたが、会社法においては、口頭でも足りることになりました。そこで、電話などの方法による場合も通知があったことになりますので注意が必要です。なお、定款や定款委任による株式取扱規則などによって、質問事項の事前通知について書面によるとの制限を加えることは可能ではないかと思います。ただし、質問事項の事前通知が株主の権利行使といえるかは若干疑問が残るところですので、定款や株式取扱規則の表現には注意が必要でしょう。
3 「当該事項について説明をするために必要な調査が著しく容易である場合」
会社法施行規則71条1号ロの要件は、[1]当該事項について説明をするために必要な調査が、[2]著しく容易である場合です。
[2]の「著しく容易である」かどうかの判断は、当該質問があった株主総会の時点において、その場の状況に基づき行われます。そこで、当該事項がたとえ事後的に著しく容易であったと判断されたとしても、株主総会のその場の状況において、調査が著しく容易でなければ、本条項に該当しないと考えられます。
4 【質問】の場合
【質問】の場合、説明をするために調査をすることが必要な場合に該当するとして、「事前に通知があった事項」といえるか、「調査が著しく容易」といえるか、が問題となります。
まず、「事前に通知があった事項」かどうかについては、質問をしたのは株主Bであって、事前に通知した株主Aが質問をしているわけではありませんので、該当しません。
次に「調査が著しく容易」といえるか、ですが、総会の会場で調査して即答することができないのですから、いくら準備をしていたとしても「調査が著しく容易」とはいえません。法は無理を強いないと解すべきです。
したがって、正解は[3]ですが、【質問】のような事情のもとでは、質問に対する説明を拒否するのは例外であって、万全の準備をしておくべきです。
※ 本記事は平成17年に「新会社法QA」として掲載されたものです。その後の法改正についてはこちらをご参照ください。
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