会社法QA 第15回 柔軟化された種類株式

 ※ 本連載は平成17年に「新会社法QA」として掲載された内容です。その後の改正はこちらをご覧ください。

【テーマ】 柔軟化された種類株式

【解説】
1 種類株式の概念が拡大されました
 株式は、均一的な割合的単位の形を取るのが原則ですが、資金調達の便宜や資本的多数決原理の修正のため内容の異なる種類株式の発行が認められています。会社法では、旧商法下において認められていた種類株式と比較すると、認められる種類株式の範囲が拡大されると共にその概念が整理されています。まず、新たに[1]譲渡制限株式、[2]全部取得条項付株式の発行が可能となりました(会社法108条1項4号・7号)。株式の譲渡制限は、旧商法下では全ての株式の譲渡性に制限を加える制度でしたが、会社法ではそれを株式の内容として捉え、特定の株式のみに譲渡制限を付すことを認めたものです。また、全部取得条項付株式は、特定の種類の株式の全部を株主総会の特別決議によって取得することができる株式であり、主に、企業再建のための100%減資を円滑に行うために利用することが期待されています。
 また、会社法では、当該株式について、会社が一定の事由が生じたことを条件として取得することができる取得条項付株式、株主が会社に対して取得を請求できる取得請求権付株式が新たに認められました。これらの種類株式は、取得の対価が限定されておらず、株式、新株予約権、新株予約権付社債、その他の財産と引換えに株式を取得することができます。旧商法下の償還株式や転換株式はこれらの株式に整理されることになりました。

2 議決権制限株式の発行数の制限が緩和されました
 議決権制限株式は、少数者による会社支配の弊害に対する配慮から発行済株式総数の2分の1を超えて発行することができないとされていました。しかし、会社法では、公開会社の場合のみ議決権制限株式の発行数が発行済株式数の2分の1を超えるに至ったときは直ちにその状態を解消するために必要な措置を取らなければならないとの規制がなされ、非公開会社においては議決権制限株式の発行数の制限が撤廃されました(会社法115条)。
 このように会社法では新しい種類株式が認められるとともにその利用が柔軟化されています。新たに認められる譲渡制限株式や全部取得条項付株式などを組み合わせて、より多様な種類株式の発行が可能となります。

【質問】
 当社は、旧商法下において株式に譲渡制限を付した同族会社ですが、現在の代表者の支配権を維持したまま資金調達をするために以下のような種類株式の利用を考えております。会社法の下でも許されない種類株式はあるでしょうか。

【選択肢】
[1] どのような場合でも議決権をまったく有しない株式を発行済株式総数の過半数を超えて発行すること。
[2] 現在の代表者に対し、取締役の選任など一定の重要事項についての拒否権が付されているが、剰余金および残余財産の分配を受ける権利が認められない株式を発行すること。
[3] 優先して剰余金を配当するが、剰余金の配当ができない場合にも議決権の行使が認められない株式を発行すること。

【正解】 [2]

【解説】
1 設問[1]の場合について
 どのような場合でも議決権を全く有しない種類株式(完全無議決権株式)を発行できるでしょうか。
 この点、議決権制限株式について定める会社法108条1項3号は、株主総会において議決権を行使することができる事項について異なる定めをした内容の異なる株式を発行できるとするだけで、議決権の制限範囲についての限界を設けていません。また、会社法105条2項も剰余金の配当を受ける権利及び残余財産の分配を受ける権利の全部を与えない定款の定めの効力を否定するのみであり、株主総会での議決権の全てを制限する完全無議決権株式も認められるものと解されています(相澤哲他『論点解説新・会社法千問の道標』商事法務91頁)。
 また、旧商法下において株式に譲渡制限を付していた会社は、会社法の下では全て株式の内容として譲渡制限の定めがあるものと看做されますので(整備法76条3項)、会社法上は非公開会社として扱われます。したがって、設問の会社は、議決権制限株式の発行株数についての制限を受けませんので、完全無議決権株式を発行済株式数の過半数を超えて発行することもできることとなります。

2 設問[2]の場合について
 非公開会社においても現経営陣の支配権を維持するニーズはありますので、取締役の選任決議などについて拒否権が付された株式を一定の者に保有させることも考えられます。
 では、支配権を維持するためだけの拒否権付株式については、剰余金の配当や残余財産の分配など、お金に関わる権利を一切認めないとすることが出来るでしょうか。
 この点については、会社法105条2項が[1]剰余金の配当を受ける権利、及び[2]残余財産の分配を受ける権利の全部を与えない旨の定款の効力を否定していますので、支配権を維持するための拒否権付株式だとしても、設問のような株式を発行することはできません。

3 設問[3]の場合について
 平成13年改正前商法では、配当優先株式についてのみ議決権制限が許されていました。また、優先配当が行えない場合には、議決権の行使が認められていました(旧商法242条)。
 しかし、会社法では、議決権の制限と剰余金の配当については、それぞれ別個に異なる定めをすることができます。したがって、剰余金について優先的に配当を行う内容とする一方で、議決権については常に(剰余金の配当を行えない場合でも)行使できない内容とすることも可能です。
 以上のとおり、会社法においても発行することができない種類株式は[2]となります。

 

※ 本記事は平成17年に「新会社法QA」として掲載されたものです。その後の法改正はこちらをご覧ください。

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