会社法QA 第16回 取締役の会社に対する責任と免除制度
※ 本連載は平成17年に「新会社法QA」として掲載された内容です。その後の改正はこちらをご覧ください。
【テーマ】 取締役の会社に対する責任と免除制度
【解説】
1 取締役の会社に対する責任について過失責任が原則となりました!
旧商法においては、取締役の会社に対する責任について、個々の責任ごとに過失責任か無過失責任かが論じられ、とくに、取締役会の承認を受けた利益相反取引に関する責任(旧商法266条1項4号、旧商法特例法21条の21)に関しては、無過失責任であると解されていました。会社法においては、原則として全て任務懈怠責任(過失責任)として取り扱われることが明文として規定され、取締役の責任は、過失責任が原則となりました(会社法120条4項、423条、462条2項、465条等)。ただし、①自己のために利益相反取引をした取締役(会社法428条)、②株主の権利行使に関し財産上の利益を供与した取締役(会社法120条4項但書)については、無過失責任とされています。
2 取締役の会社に対する責任につき免除制度が整理されました!
取締役の会社に対する責任の免除については、旧商法では各責任によって免除に関する要件や手続が異なっている部分があり、複雑となっていましたが(旧商法266条5項乃至23項)、会社法においては、①総株主の同意による全部免除(会社法424条)、②株主総会の特別決議による一部免除(会社法425条)、③定款授権に基づく取締役会の決議による一部免除(会社法426条)、④責任限定契約による責任の一部限定(会社法427条)に整理されました。そこで、旧商法、旧商法特例法において認められていた利益相反取引に関する責任の総株主の3分の2以上の同意による免除(旧商法266条6項、旧商法特例法21条の21第2項)がなくなり、利益相反取引に関しても他の責任と同様の免除のみが認められることになりました。
責任の一部免除、責任限定契約に関して、代表取締役が報酬の6年分、社外取締役を除く代表取締役以外の取締役は報酬の4年分、社外取締役は報酬の2年分を限度(責任限定契約については定款で定める額と比較して高い方)にして認められるとともに、要件として職務を行うにつき善意かつ無重過失の場合に限定されていることは旧商法と変更はありません。
なお、任務懈怠責任以外の責任の免除には、一部免除、責任限定契約に関する規定の適用はなく、原則どおり、総株主の同意が必要です(会社法120条5項、462条3項、465条2項)。
【質問】
当社は、取締役会と監査役を設置する株式会社です。平成18年2月に代表取締役である甲に対して1000万円の貸付を行うことにつき取締役会で承認し、貸付を行ったところ、甲は1円も返済することなく、同年6月に突然代表取締役を辞任するとともに、所在がつかめなくなってしまいました。株主には、取締役の責任免除について少なからず反対の者がいます。甲及び他の取締役の責任はどうなりますか。なお、責任免除に関する定款規定は一切ありません。
【選択肢】
[1] 甲は責任を免れないが、他の取締役は責任を免れる可能性がある。
[2] 甲も他の取締役も責任を免れる可能性がある。
[3] 甲も他の取締役も責任を免れることはできない。
【正解】 [3]
【解説】
1 取締役の会社に対する責任についての経過措置
取締役の会社に対する責任については、整備法78条において、「旧株式会社の取締役・・・の施行日前の行為に基づく損害賠償責任については、なお従前の例による」とされています。そこで、取締役の会社に対する責任の取り扱いについては、行為をした時が、平成18年5月1日よりも前か後かによって、旧商法が適用されるか、会社法が適用されるかが決まります。
2 利益相反取引に関する取締役の責任についての旧商法上の取り扱い
会社の代表取締役に対する貸付行為は、旧商法265条に該当する利益相反取引の一態様です。しかし、利益相反取引であっても、取締役への金銭の貸付は、旧商法266条1項3号によって特別に規定され、その責任に対する266条6項による免除は受けられないと解されていました。その他の利益相反取引は、旧商法上、総株主の議決権の3分の2以上の多数をもって、免除することができることになっていました(旧商法266条6項)。
また、旧商法上、利益相反取引に関する責任の一部免除、責任限定は認められていませんでしたし、取締役への金銭貸付を含む利益相反取引に関する取締役の責任は、委員会等設置会社を除いて、無過失責任とされていました(責任を負う取締役の範囲については旧商法266条1項~3項参照)。
そこで、旧商法が適用されるならば、取締役への金銭貸付に関する取締役の責任は、総株主の同意がなければ免除することはできず、また、取締役が無過失であっても責任を負うことになります。会社から貸付を受けた取締役も同様です。
3 利益相反取引に関する取締役の責任についての会社法上の取り扱い
会社法では、利益相反取引に関する取締役の責任の法的性質について、任務懈怠責任として位置付けました(会社法423条1項)。そこで、利益相反取引行為により会社に損害が生じた場合であっても、任務の懈怠がなければ、取締役は責任を免れます。但し、任務を怠っていないことについての立証責任は取締役側にあります(会社法423条3項)(責任を負う取締役の範囲については会社法423条3項、356条、419条2項、369条5項参照)。取締役への金銭貸付も他の利益相反取引と同様の扱いを受けることになりました。
また、利益相反取引に関する取締役の責任も、総株主の同意による全部免除(会社法424条)、株主総会の特別決議による一部免除(会社法425条)、定款授権に基づく取締役会の決議による一部免除(会社法426条)、責任限定契約による責任の一部限定(会社法427条)も認められることになりました。
なお、自己のために会社と直接利益相反取引をした取締役は無過失責任であり、かつ一部免除も認められません(会社法428条)。
そこで、自己のために会社と直接利益相反取引をした取締役以外の取締役は、任務を怠っていないことを立証できれば、責任を免れます。また、総株主の同意(全部免除)、株主総会の特別決議・定款授権に基づく取締役会の決議による免除(一部免除)、責任限定契約による責任の一部限定があれば、全部または一部の責任を免れることになります。他方、会社と直接利益相反取引をした取締役は、総株主の同意以外に責任を免れる方法はありません。
4 【質問】の場合
【質問】の場合、会社が代表取締役である甲に対して1000万円の貸付を行うことにつき取締役会で承認し、貸付を行ったのは平成18年2月ですから、旧商法が適用されます。旧商法を前提として考えると、取締役の責任は全て無過失責任ですから、過失がないからといって、責任を免れることはできません。そして、総株主の同意がなければ免除されないので、取締役の責任免除に反対の株主がいる【質問】の場合、免除されることはありません。なお、甲は、損害賠償責任とは別に貸金返還債務を会社に負っていることになりますが、会社に対する通常の債務は、取締役会等において、経営判断により免除することは可能です。
したがって、正解は③です。
なお、会社法に従うと、甲は責任を免れませんが、他の取締役は責任を免れる場合があります。具体的にいうと、免除に反対の株主がいる以上、総株主の同意はとれませんので、甲は責任を免れません。その他の責任を負うべき取締役は、任務を怠っていない場合には責任を免れることになります。また、任務を怠っていないことにつき立証できなくとも、重過失がないときは、株主総会の特別決議によって一部免除される可能性もあります。但し、反対の株主がいるので、全部免除にはなりません。
※ 本記事は平成17年に「新会社法QA」として掲載されたものです。その後の法改正はこちらをご覧ください。
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