会社法QA 第20回 簡易組織再編・略式組織再編(事業譲渡を含む)
※ 本連載は平成17年に「新会社法QA」として掲載された内容です。その後の改正はこちらをご覧ください。
【テーマ】 簡易組織再編・略式組織再編(事業譲渡を含む)
【解説】
1 簡易組織再編(事業譲渡を含む)の要件が緩和されました
簡易組織再編行為について、旧商法では、資産の部に計上した額の合計額や発行済株式総数の二十分の一を基準に株主総会の要否が決せられていましたが、会社法においては、総資産や純資産額の五分の一を基準に株主総会の要否が決せられるようになりました(吸収合併の存続会社、吸収分割の承継会社および株式交換の完全親会社につき会社法796条3項、会社分割の分割会社につき会社法784条3項、805条)。簡単にいえば、組織再編によって会社組織を受け入れる側は、合併等により相手に交付する対価が純資産額の五分の一を超えない場合に、会社組織を出す側は、会社分割の場合に限り、切り出す資産が総資産の五分の一を超えない場合に簡易組織再編行為となり、株主総会は不要となります。なお、簡易組織再編行為であっても、合併差損が生じる場合や存続会社が非公開会社で対価が譲渡制限株式である場合などには、原則に戻り、株主総会の承認が必要となります(会社法796条3項但書等)。
事業の譲渡・譲受について、旧商法上は、営業の全部または重要な一部の譲渡・全部譲受には株主総会の承認が必要とされており(旧商法245条1項1号、3号)、営業の全部譲受の場合、譲受対価が譲り受ける会社の純資産額の二十分の一を超えないときに株主総会の承認は不要とされていました(旧商法245条の5第1項)。会社法では、事業の一部の譲渡の場合、譲り渡す資産の帳簿価額が当該株式会社の総資産額の五分の一を超えないとき(会社法467条1項2号かっこ書き)、事業の全部譲受の場合、譲受対価が純資産額の五分の一を超えないとき(会社法468条2項)、株主総会の承認は不要となりました。
2 略式組織再編制度(事業譲渡を含む)が新設されました
会社法では、支配関係にある会社間での組織再編行為、事業の全部または重要な一部の譲渡及び事業の全部譲受については、株主総会の承認は不要となりました(略式組織再編制度)。ここで、支配関係にある会社間とは、議決権の9割以上を会社単独または100パーセント子会社等と共同で保有している場合などの親子会社間をいいます(会社法468条、784条1項、796条1項)。
【質問】
当社は、総資産額が100億円の会社ですが、今回資産の帳簿価額が25億円の不動産事業を他社に売却しようと考えています。当社はもともと商品の小売業中心の会社で、現在も小売業は好調なのですが、不動産事業は赤字が続いています。不動産事業を事業譲渡の方法により譲渡する場合、株主総会の承認はとらなければならないのでしょうか。吸収分割による場合はどうですか。なお、定款に特別の記載はありません。
【選択肢】
[1] 事業譲渡による場合も吸収分割による場合も株主総会の承認が必要である。
[2] 事業譲渡による場合も吸収分割による場合も株主総会の承認は不要である。
[3] 事業譲渡による場合には株主総会の承認が不要となる可能性があるが、吸収分割による場合は株主総会の承認が必要である。
【正解】 [3]
【解説】
1 株主総会の決議が不要な事業の一部譲渡
株主総会の決議が必要な「事業の重要な一部の譲渡」には、譲渡資産の帳簿価額が会社の総資産額の5分の1を超えないものは除かれていますので、事業がいくら重要であっても、譲渡資産の帳簿価額が会社の総資産額の5分の1を超えない限り、株主総会の決議は必要ありません。
他方、譲渡資産の帳簿価額が会社の総資産額の5分の1を超える場合であっても、事業が「重要」でなければ、株主総会の決議は必要ありません。会社法467条1項2号のかっこ書きは、事業の重要性の基準を総資産額の5分の1と定めているのではなく、株主総会の決議を要する事業の譲渡の範囲を形式的に線引きしているに過ぎません。
そこで、株主総会の決議が不要な事業の一部譲渡には、①譲渡資産の帳簿価額が会社の総資産額の5分の1を超えない事業の譲渡、②譲渡資産の帳簿価額が会社の総資産額の5分の1を超えるが、重要でない事業の譲渡の2つが考えられます。
②の場合の重要性の判断は、事業譲渡によって生じる競業避止義務が譲渡会社の収益や譲渡後の事業活動に与える影響が重大かどうか等の基準によってなされることになると解されています(相澤哲ほか編著『論点解説新・会社法』660頁(商亊法務,2006年)。
2 分割会社における株主総会の決議が不要な会社分割
株主総会の決議が不要な会社分割には、会社法上、①簡易会社分割、②略式会社分割の2つが定められています(会社法796条、784条、805条)。
吸収分割の分割会社において、承継会社に承継させる資産の帳簿価額の合計額が分割会社の総資産の5分の1を超えない会社分割には、株主総会決議が不要です(会社法784条3項)。この要件は、反対から言えば、承継会社に承継させる資産の帳簿価額の合計額が分割会社の総資産の5分の1を超える場合には、株主総会の決議が必要であることを表しています。
3 【質問】の場合
【質問】の場合、総資産額が100億円の会社が帳簿価額25億円の不動産事業を他社に売却する場合ですから、譲渡する(承継させる)資産が、総資産の5分の1を超えることは明らかです。そこで、会社分割による場合、株主総会決議が必要になります。
他方、事業の一部の譲渡による場合、形式的には5分の1基準に当てはまるとしても、会社にとって当該事業が重要でない場合には、株主総会は不要です。もともと商品の小売業中心で現在も小売業は好調である会社が、赤字である不動産事業を売却する場合、不動産事業を譲渡して生じる競業避止義務は、当該会社の収益や譲渡後の事業活動に重大な影響を与えるとはいえず、むしろ、収益性向上につながるものともいえるので、質的に重要でないといえる可能性があります。そこで、株主総会の承認が不要となる可能性があります。
したがって、正解は③です。
※ 本記事は平成17年に「新会社法QA」として掲載されたものです。その後の法改正はこちらをご覧ください。
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