会社法QA 第28回 計算書類と監査役の計算書類の監査
※ 本連載は平成17年に「新会社法QA」として掲載された内容です。その後の改正はこちらをご覧ください。
【テーマ】 計算書類と監査役の計算書類の監査
【解説】
1 計算書類が整理されました。
会社法においては、計算書類等の書類について、会計と業務を明確に区別しました。すなわち、旧商法においては、貸借対照表、損益計算書、営業報告書、利益処分案(損失処理案)という計算関係の書類と業務関係の書類、議案という性格の異なるものを合わせて計算書類と称していましたが(商法281条1項参照)、会社法においては、貸借対照表、損益計算書、株主資本等変動計算書、個別注記表を合わせて計算書類とすることを明文で定め(会社法435条2項、計算省令32条1項)、営業報告書(会社法では事業報告)、利益処分・損失処理案は、計算書類から外されました。なお、利益処分・損失処理案は、剰余金の配当(会社法454条)、役員の賞与(会社法361条1項)、資本の部の計数変動(会社法448条、450~452条)等のそれぞれに規定されることになりました。
2 監査報告と取締役会の承認の順序が明文で定められました。
また、従来、計算書類(貸借対照表、損益計算書)について、監査役の監査と取締役会の承認の順序は明文で定められていませんでしたが、会社法においては、計算書類及び附属明細書について、監査役の監査を受けた後、取締役の承認を受けることになっています(会社法436条3項)。ですから、会計監査人のいない会社では、監査役が監査報告の作成を行った後、取締役会を開催して、計算書類の承認をしなければなりません。また、会計監査人のいる会社の場合には、計算書類についてまず会計監査人の監査を受け、会計監査報告の作成を受けた後、監査役(会)が監査して、監査報告を作成し、その後、取締役会の承認を行うことになります。
3 監査期間の定めが詳細になりました。
監査期間は旧商法上、計算書類を受領した日から4週間以内(旧商法特例法上の大会社は、会計監査人の監査報告書を受領した日から1週間以内)とされていましたが、会社法では、①計算書類の全部を受領した日から4週間を経過した日、②計算書類の附属明細書を受領した日から1週間を経過した日、③取締役と監査役が合意した日のいずれか遅い日までとして、計算書類を受領してから最低4週間を確保できるようにしました。なお、会計監査人設置会社の場合、旧法と同様に会計監査人の会計監査報告を受領した日から1週間を経過した日までですが、取締役と監査役が合意した日が遅ければ、その日が監査報告の通知期限になります(会社法160条1項)。
【質問】
当社は、旧商法特例法上の小会社で、会社法になってから定款変更をしていない会社です。今回、株主総会を開催しようとして、株主総会の招集通知を株主に送ったのですが、監査報告を付け忘れました。大丈夫でしょうか。
【選択肢】
[1] 監査報告は招集通知につけなければならないから、招集手続は違法である。
[2] 監査報告を招集通知につける必要はないから、招集手続は適法である。
[3] 原則として違法であるが、監査報告を後で送れば適法になる。
【正解】 [1]
【解説】
1 旧商法特例法上の小会社
旧商法特例法上、資本の額が1億円以下の株式会社は、小会社として取り扱われました。そして、小会社の監査役の権限は会計監査権限に限定されていました。
会社法においては、小会社という分類はなくなり、資本の額が1億円以下であっても、原則として会計監査権限及び業務監査権限の両方が監査役の権限となっています(会社法381条1項)。そして、監査権限を会計監査に限定するには、定款の定めによることとされています(会社法389条1項)。ただし、会社法施行時において、旧商法特例法上の小会社にあたる会社は、整備法により、定款に監査の範囲を会計に関するものに限定する旨の定めがあるものとみなされています(整備法53条)。なお、会社法においては、監査役の監査権限を会計監査権限に限定する定款は、非公開会社に限られています(会社法389条1項)。
また、旧商法特例法上の小会社の機関設計は、定款に取締役会及び監査役を置く旨の定めがあるものとみなされていますので(整備法76条2項)、会社法上も、監査役が会計監査権限しか持たない取締役会設置会社となります。
他方で、会社法においては、監査役設置会社とは、会計監査、業務監査の双方の権限を持つ監査役を設置する会社のことをいい(会社法2条9号)、監査権限が会計監査に限定される会社は、監査役設置会社とはいいません。 ただし、株主総会の招集通知に際しての監査報告の提供に関する437条に引用される436条においては、監査役設置会社に監査役の監査の範囲を会計に関するものに限定する旨の定款の定めがある株式会社を含んでいますので、監査報告の提供は必要です。
2 会社法における招集通知の添付書類
会社法における招集通知の添付書類は、書面投票・電子投票の採用の有無と会社の機関設計により区別されています。
まず、書面投票・電子投票を採用している場合には、株主総会参考書類及び議決権行使書面を招集通知に際して交付しなければなりません(会社法301条)。
次に、会社の機関設計による区別ですが、取締役会設置会社かつ会計監査人設置会社においては、招集通知に際して、計算書類、事業報告、監査報告及び会計監査報告を株主に提供しなければなりません(会社法301条、437条、会社法施行規則133条、会社計算規則161条1項3号)。取締役会・監査役設置会社(監査役の監査の範囲を会計に関するものに限定する旨の定款の定めがある株式会社を含む)で会計監査人非設置会社の場合、招集通知に際して、計算書類、事業報告及び監査報告を株主に提供しなければなりません(会社法301条、437条、436条、会社法施行規則133条、会社計算規則161条1項2号)。そして、それ以外の会社は、招集通知に際して、計算書類と事業報告を株主に提供すれば足ります(会社法301条、437条、会社法施行規則133条、会社計算規則161条1項1号)。監査役設置会社(監査役の監査の範囲を会計に関するものに限定する旨の定款の定めがある株式会社を含む)において、監査報告を提供し忘れた場合、株主総会の2週間前(非公開会社は1週間前)であれば追完しても有効となる可能性がありますが、法定期間を割り込んでいる場合には、追完しても有効とならないと考えられます。ただし、全員出席株主総会となった場合には、招集手続の違法性は問題とならなくなる可能性はあります。
2 【質問】の場合
【質問】の場合、旧商法特例法上の小会社で、会社法施行後定款変更していないのであれば、整備法により、定款に監査の範囲を会計に関するものに限定する旨の定めがあるものとみなされ、会社法上、取締役会設置会社ではあるものの、監査役設置会社には該当しませんが、計算書類等の監査及び株主総会招集通知に際しての監査報告の提供に関しては、監査役設置会社として取り扱われます。したがって、株主総会の招集通知に監査報告を添付しない場合は、招集手続に違法があることになります。
そこで、正解は①です。
※ 本連載は平成17年に「新会社法QA」として掲載されたものです。その後の法改正はこちらをご覧ください。
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