会社法QA 第30回 特定株主からの自己株取得 (最終回)

 

 ※ 本連載は平成17年に「新会社法QA」として掲載された内容です。その後の改正はこちらをご覧ください。 

【テーマ】 特定株主からの自己株取得

【解説】
1 特定の株主からの自己株取得の原則的取扱い
 株式会社は、株主総会決議によって、株主との合意に基づいて自己株式を取得することができます(会社法156)。このとき、特定の株主から自己株式を買い取る旨を決議すれば、株式会社は特定の株主から自己株式を取得することができます(同法160)。ただし、この場合、取得する株式の種類や数等のほかに、その株主の氏名(名称)も決議することが必要です(同法160Ⅰ)。しかも、定款をもって取得する自己株式の種類や数等を取締役会決議事項としている会社でも株主総会決議をしなければならないこととされています(同法459Ⅰ①)。また、特定株主からの自己株式を取得する場合には、特定の株主以外の株主は、自己を当該特定の株主に追加するよう請求することができ、その場合会社は、請求をした株主からも取得しなければなりません(同法160Ⅲ)。

2 例外的に特定の株主からのみ自己株式を取得できる場合
 特定の株主以外の株主が自己を特定の株主に追加する請求について、会社法はこれを無限定に認めるのではなく、一定の場合には認めないこととしています。この場合、株式会社は、例外的に、特定の株主からのみ自己株式を取得することができます。一定の場合とは次のような場合です。
 ①市場価格のある株式を市場価格以下の対価で取得する場合(同法161)
 ②株主の相続人その他の一般承継人から取得する場合(同法162)
 ③子会社から取得する場合(同法163)
 ④全員の同意による定款により、他の株主が自己を特定の株主に追加することを請求することができないことと定めた場合(同法164)

3 市場価格の意義
 左記2①にいう市場価格とは、会社法施行規則30条において以下のように定められています。①株主総会の決議の日の前日における当該株式を取引する市場における最終の価格(当該日に売買取引がない場合または当該日が同市場の休業日にあたる場合にあっては、その後最初になされた売買取引の成立価格)。②株主総会の決議の日の前日において当該株式が公開買付け等の対象であるときは、当該日における当該公開買付け等に係る契約における当該株式の価格。

【質問】
 このたび当社は特定の株主から株式を取得したいのですが、当社の株式は、日本だけでなく海外も含めると三つの証券取引所に上場されています。株主総会の決議の日の前日の各証券取引所の最終の株価は、A証券取引所300円、B証券取引所400円、C証券取引所が500円でした。ただし、C証券取引所においては、請求のあった日の午前0時をまたいで立会時間が設定されており、その日のうちに立会時間が終了していません。この場合、どの価格が最終取引価格となるのでしょうか。なお公開買付の対象にはなっていません。

【選択肢】
[1] A証券取引所300円
[2] B証券取引所400円
[3] C証券取引所500円

【正解】 [2]

【解説】
1 市場価格の算定方法
 上場されている市場が複数ある場合における最終取引価格は、それらの市場における最終取引価格のうち最も高い額となります。
 ただ、海外の市場で日本時間の午前0時をまたいで立会時間が設定されている場合は、基準となる日に終了した立会時間における最終取引価格が当該市場における最終取引価格となります。
 つまり、基準となる日に、立会時間が開始されても、その日のうちに立会時間が終了しなければ、その間に取引された価格は、算定の対象とならないということを意味します。
 そして、市場の立会時間の終了時刻が異なる場合であっても、それぞれの市場における最終取引価格を比較することになります。

2 【質問】の解答
 【質問】の場合、最も高いのは[3]ですが、基準となる日に立会時間が終了していませんので算定の対象となりません。そこで、2番目に高い[2]が正解となります。

 

※ 本連載は平成17年に「新会社法QA」として掲載されたものです。その後の法改正はこちらをご覧ください。

※ 全記事にはこちらからアクセスできます。