新しい法律の解説 平成15年担保・執行法改正の解説(各論)
I 担保法制に関する具体的な改正点
1. 雇用関係の先取特権
(1) 改正前
雇用関係の先取特権については、民法および商法に定められており、下の表にあるような差異があった。
期間
範囲
民法308条
最後の6ヶ月の給料
雇人の「給料」
商法295条
会社・使用人間の雇用関係に基づき生じたる債権の全額
請負、委任の契約により労務提供するものも含むと解されている。
(2) 改正の趣旨
債務者の企業形態により、先取特権によって担保される労働債権の範囲につきこのような差異を設けることは、必ずしも合理性がなく、労働債権を保護する観点から、その保護を拡大する方向で改正がなされた。
(3) 改正された法律
民法第306条1項
民法第308条
(4) 改正点
民法308条の内容を商法295条の範囲まで拡大した。
先取特権の対象が、「雇人」の「給料」から、「雇用関係に基づき生じたる債権」へ改正され、賞与、退職金、実質的な雇用関係にある報酬も、先取特権の対象となった。また、雇用関係に基づき生じた債権のすべてについて、期間の限定なく先取特権を認めることされ、先取特権の範囲が、受け取るはずの債権全額に及ぶことになった。
2. 指名債権の債権質
(1) 改正前
債権質において、債権につき証書がある時は当該債権証書の交付を質権設定の効力発生要件としていた(民法363条:要物契約性)。
(2) 改正の趣旨
実務では質権が設定される指名債権について何が債権証書に該当するのか明確でない場合や、債権証書が存在しないと考えて交付を受けずに質権を設定しても後日その有効性が否定される可能性があり、当事者が予測困難な危険を負担する場合があった。このような問題点を解消するために改正された。
(3)改正点(民法363条)
債権を目的とする質権設定契約の効力発生のために証書の交付が必要とされるのは、証券的債権などの特別な債権(債権譲渡においても証書の交付が必要とされるような債権)に限ることとした。
したがって、それ以外の指名債権については、仮に証書が交付されていたとしても、当事者の意思表示のみによって質権自体は有効に成立する。
3. 担保不動産の収益執行制度の新設
(1) 従来
従来、債務名義を有する一般債権者は、債務者所有の不動産の強制管理*1により、その収益からも債権を回収することができた(民執法93条以下)。一方、抵当権者が被担保債権の回収をはかる方法としては不動産競売しか規定されておらず、抵当不動産の収益(賃料)から回収する方法は規定されていなかった。
*1
強制管理とは、債務者所有の不動産を換価することなく、その収益を管理人に収取させ、これを金銭債権の弁済に充てる強制執行手続きである。
(2) 新設の趣旨
従来から、実務では、抵当不動産の賃料に対する物上代位を認める取り扱いが定着していた(最判平元.10.27・民集43巻9号1070頁)が、物上代位手続では不動産の管理をすることができないという限界があるため、管理が杜撰になり、賃借人に犠牲を強いる等の不都合が指摘されてきた。
この問題を解決するために、一般債権者が債務名義に基づく強制管理を行うのと同様の制度を設け、収益からの優先的回収を図ることを目的としたものである。
(3) 新設、改正された法律
民執法第180条
(不動産担保権の実行の方法)(新設)
同 法第188条
(不動産執行の規定の準用)
同 法第107条4項
(管理人による配当等の実施)
同 法第93条の4
(給付請求権に対する競合する債権差押命令等の効力の停止等)
民法 第371条
(4) 新制度
担保不動産収益執行とは、不動産から生ずる収益を被担保債権の弁済にあてる方法による不動産担保権の実行をいう(民執法180条2号)。今回の改正で、不動産担保権の実行方法として、「担保不動産競売」と「担保不動産収益執行」の二つがある旨が明確にされた(民執法第180条)。
*
担保不動産競売 従来の競売による不動産担保権実行
*
担保不動産収益執行(新設) 手続は民執法93条を準用(同法188条)
このほかに、抵当権者は物上代位権に基づく賃料の差押えによって被担保債権を回収する方法も選択できる。
【担保不動産収益執行の手続きの流れ】
[1]
担保不動産収益執行の申立て(民執法181条)
[2]
執行裁判所による担保不動産収益試行の開始決定(民執法188条、93条1項、94条1項)
[3]
管理人による担保不動産の管理(民執法188条、95条1項、99条)
[4]
管理人または執行裁判所による配当等(民執法188条、107条、109条)
【担保不動産収益執行手続きと担保不動産競売手続きとの関係】
抵当権者は、担保不動産収益執行制度と担保不動産競売手続きは独立した担保権の実行手続きであることから、両者のいずれか一方を選択することができる。また、この両者を併用することもできる。
【担保不動産収益執行と物上代位行使との間の調整】
抵当権者は、案件ごとに担保不動産収益執行手続きか、物上代位による賃料差し押さえ手続きかのいずれかを選択できる。
両手続きは類似する手続きであるため、担保不動産が賃貸され、その賃料に物上代位権が行使された後に、不動産担保収益執行がなされたような場合には、両手続きの調整が必要となる。
物上代位による賃料差押えの手続きが先行している場合に担保権に基づく強制管理が始まると、物上代位による差し押さえの効力は停止され、後者の担保不動産収益執行手続きの中に取り込まれる(同法93条の4)。
【担保不動産収益執行と物上代位の比較分析】
抵当権者が物上代位による賃料差押え手続きと担保不動産収益執行手続きとどちらを選択するべきかについては、当該担保不動産について、両手続きのメリット、デメリット(下の表を参照)を勘案していくことになるであろう。
両者を比較すると、賃借人の特定が困難である場合や、管理コストに見合うだけの収益が見込まれる場合、賃借人の入れ替わりが激しい場合、担保権設定者の適切な管理が期待できないような場合などが、担保不動産収益執行手続きに適している。
担保不動産収益執行
物上代位
メ
リ
ッ
ト
[1]
管理人管理のため、回収額の増大が期待できる。
[2]
給付義務者の一部が不明でも申立できる。
[3]
テナントが入れ替わっても管理人が新規賃貸借を契約でき、一定の収益収取を確保できる。
[4]
管理人を通じた賃料取立、契約解除ができる。
[1]
管理人に対する報酬、管理行為に付随する費用がかからず、回収コストが安価。
[2]
物上代位による債権差押命令の効力は、給付義務者の毎月の支払いが及ぶ。新制度に比べ、回収サイクルが早い。
デ
メ
リ
ッ
ト
[1]
管理費用のコストがかかる。
[2]
管理人が締結する賃貸借契約は、買受人に対抗できない。
[3]
執行裁判所の定める期間に従う。
[1]
給付義務者の特定及び送達が効力発生要件。
[2]
個別に取立て。
[3]
管理費・共益費まで物上代位が及び、設定者の管理に支障が出て、物件が荒廃するおそれ。
【担保不動産収益執行の留意点】
*
登記された担保権者であっても、当然には配当を受けられるわけではないことに注意。配当を受けようとする担保権者は、自ら担保不動産収益執行の申立てをした差押債権者になる必要がある。
*
強制競売の場合と異なり、強制管理等が開始された場合であっても、登記している担保権者に対して強制管理開始等の通知はないので注意が必要。
(5) 民法371条の改正(抵当権の効力の及ぶ果実の範囲)
改正前の民法371条は、抵当権の効力は抵当不動産の競売開始後の天然果実に及ぶと解されている。今回の改正で、抵当権の効力が及ぶことになる条件が「差押え」から「債務不履行」に変更されたもので、被担保債権が不履行になった後は、抵当権が果実に対して効力を及ぼすことが明らかになり、担保不動産収益執行について実体法上の根拠が明確になったといえる。
4. 抵当権消滅請求
(1) 改正前(滌除制度)
抵当権消滅請求制度は、改正前の滌除制度を改正したものである。滌除とは、抵当不動産を取得した者(第三取得者)のイニシアチブで抵当権を消滅させることを可能にする制度をいう。
第三取得者の保護という点では、強力な制度ではあるが、反面、抵当権者の負担の大きい制度(増価買受義務等)。
(2) 改正の趣旨
【従来の滌除制度の問題点】
* 執行妨害
* 濫用的事例
* 増価買受義務
* 抵当権者が抵当権を実行する時期を選択できなくなる
【趣 旨】
・従来の滌除制度の問題点の解決
・債務超過型抵当不動産の流通促進を図る制度として有用 → 制度の存続
・制度の名称を「抵当権消滅請求」と平易な用語に改めた
(3) 改正された法律
民法第378条、381条(削除)
民法第382条(抵当権消滅請求権)
民執法第185~187条(削除)
(4) 改正点
【概要】
抵当権消滅請求権とは、抵当権について所有権を取得した第三者が自ら評価した抵当不動産の価額(抵当権消滅金額)を抵当権者に申し出て、抵当権者が承諾すれば、申し出額を払い渡すか供託することによって抵当権を消滅させる制度。
滌除制度とほとんど異ならず、増価競売や、買受義務、抵当権実行筒地義務をなくす等の改正がなされた。
【具体的な改正点】
[1]
抵当権消滅請求権者が、所有権を取得した第三者に限定された。抵当不動産につき地上権又は永小作権を取得した第三者は除外された(民法378条の改正)。
[2]
抵当権実行通知義務の廃止(民法381条の削除、387条の内容削除)。抵当権者は、抵当権実行にあたり事前に第三取得者に対して抵当権実行の旨を通知する必要がなくなった。これにより抵当権実行が迅速に出来るようになった。
[3]
[2] に伴い、第三取得者による消滅請求可能時期が競売開始決定にかかる差押えの効力が生ずるまでに改められた(民法382条の改正)。従来は、抵当権実行通知を受けるまで可能であった。
[4]
消滅請求の申し出を受けた後の抵当権者による競売申立期間が「1月」から「2月」に伸長され、この2月以内に競売の申立をしない時は、第三取得者の申し出を承諾したものと見なされることになった(民法384条1項の改正)。
[5]
増価買受義務の廃止(民法384条2項、民執法185条から187条までの削除)。すなわち、抵当権者が消滅請求申出に対抗して競売を申し立てる場合に、当該競売において第三取得者が提供した金額より10分の1以上高価に抵当不動産を売却することができないときは10分の1の増価をもって自らその不動産を買い受けるべき旨を付言する必要がなくなり、競落されない場合における買受義務をいっさい負わないことになった。
[6]
買受義務の廃止に加え、当該競落において買受けの申出がなく最終的に競売手続きが取り消された場合(民執法63条3項、68条の3参照)、承諾擬制の効果が生じないこととされた(同条4号。新設)。
[7]
[5] の競売申立てをした抵当権者がその申立てを取り下げる場合、登記をした他の債権者の承諾を得る必要がなくなった(民法386条の内容削除)。
(5) 今後
これらの改正によって濫用的な抵当権消滅請求は相当防止されることになると考えられる。抵当権者による増価買受義務がなくなり、また消滅請求に対抗して申し立てられた競売手続きにおいて買受人が現れなければ消滅請求は無に帰することになったので、抵当権消滅請求者(従来の滌除権者)が適切な金額を提示してくる可能性が高まったと考えられている。
5. 一括競売
(1) 改正前
抵当権設定後に、抵当権設定者が、建物を築造した場合に一括競売できる(民法389条)。第三者が抵当地に建物を築造した場合には、土地のみの競売しかできなかった。
(2) 改正の趣旨
抵当権妨害ということであれば、抵当権設定者が築造した場合に限定する必要はないことから、抵当権設定者以外の第三者が建物を築造した場合であっても一括競売ができるよう改正された。
(3) 改正点(民法第389条)
[1]
土地抵当権者は、抵当権設定後に抵当地に築造された建物を、それが抵当権設定者以外の者が築造した場合であっても、抵当地とともに競売(一括競売)することができるようになった。
ただし、建物所有者が抵当地について抵当権者に対抗することができる権利を有するときは一括競売できない(民法389条本文の改正)。
[2]
土地抵当権者が建物を一括競売しても、抵当地の売却代金についてのみ優先弁済を受けることができる(同条1項但書)。
(4) 今後
土地抵当権に対抗できない賃借権等は一括競売によって消滅することになるので(民法389条2項)、短期賃貸借制度の改正とともに、抵当権の価値保存に効果的なものになる。
6. 短期賃貸借保護制度
(1) 改正前
抵当権に後れる賃貸借であっても、それが民法602条に定める期間を超えない短期間のものである場合(短期賃貸借人)には、抵当権者(買受人)に対抗できるとしていた(民法395条)。
(2) 改正の趣旨
【問題点】
短期賃貸借は、執行手続き妨害のための悪用を理由として専ら抵当権者に損害を及ぼす濫用的側面が強調されていたが、一方で、正常な短期賃貸借をどの程度保護するかは一つの問題であった。
【趣 旨】
執行妨害に濫用されることを防ぐことと賃借人の保護。
(3) 改正された法律
民法第395条
民法第387条
(4) 改正点
執行妨害排除(現行の短期賃貸借制度の廃止)と賃借人の保護
【執行妨害排除】
[1]
抵当権に後れる賃貸借は、その期間の長短にかかわらず、抵当権者および競売における買受人に対抗することができないものとする(民法395条の内容の削除)。
【賃借人の保護】
[2]
抵当権者に対抗することができない賃貸借により建物を占有する者(競売による差し押さえの後に強制管理等によらずに占有を始めた者を除く)に対しては、建物の競売によりその所有権が買受人に移転したときから6ヶ月間の明け渡し猶予期間を与えるものとする(民法395条の変更)。
[3]
抵当権の登記後に登記された賃貸借であっても、これに優先するすべての抵当権者が同意をし、その同意について登記がされたときは、[1] に関わらず、当該抵当権者および競売における買受人に対抗することができるものとする(同法387条の変更)。
※ 改正法施行の際、現に存する短期賃貸借については、それが改正法の施行後に更新された場合を含め、改正法の施行後も引き続き現行の短期賃貸借制度が適用されることとなる(附則5条)。
(5) 敷金との関係
[1]
短期賃貸借制度の廃止に伴う影響
従来は、買受人に対抗できるとされ、その結果買受人から敷金の返還を受けることができるとされていた短期賃借人についても、買受人からの敷金返還請求はできないことになる。
[2]
抵当権者の同意制度に関する点
後発賃貸借に対する抵当権者の同意制度(民法387条1項)に伴い、敷金が登記事項となった(不動産登記法132条1項)。
抵当権者の同意制度により、賃借人が買受人に主張できる契約内容は、賃貸借登記に記載された内容による。
これは、買受人に承継される敷金関係を明確にして抵当権者がこの同意制度を利用しやすくしようという視点で改正された。
7. 根抵当権の元本確定
(1) 改正前
根抵当権の元本確定事由に「取引ノ終了」(民法398条の20第1項1号)があげられていたが、どのような取引状況になれば、「取引の終了」に該当するのかが明確ではなく、いつ元本確定事由が生じたのかの判断が困難であった。
根抵当権設定者が確定前の根抵当権について元本確定請求ができる旨の規定はあった(民法398条の19第1項)が、根抵当権者による元本確定請求権を認める規定はなかった。
(2) 改正の趣旨
【問題点】
[1]
従来、根抵当権の元本確定事由のうち、「取引ノ終了」について、そのような取引状況になれば該当するのかが明確でなかった。
[2]
根抵当権者から元本確定請求する必要性。
[3]
根抵当権の譲渡の登記についても、元本確定の登記が必要となるため、根抵当権設定者が登記申請の協力が得られない場合には、給付判決を得て根抵当権者が単独申請する等方法を採らざるを得ず、煩雑だった。
【趣 旨】
根抵当権の元本確定事由を明確なものとし、
根抵当権により担保された債権の譲渡を円滑に行えるようにする。
(3) 改正された法律
民法398条の20第1項1号 → 削除
民法398条の19
不登法119条の9
(4) 改正点
[1]
担保すべき債権の範囲の変更、取引の終了その他の事由による元本不発生にかかる確定事由がなくなった(民法398条の20第1項1号)。
[2]
根抵当権者の主導による元本確定が認められた(同法398条の19第2項の新設)。ただし、元本確定期日の定めがある場合は、確定請求はできない。
[3]
[2] により元本が確定した場合の元本確定の登記は、根抵当権者が単独で申請することができることとされた(不動産登記法119条の9の新設)。
(文責 弁護士 呰 真希)2004.4.1
II 1. 民事執行法に関する具体的な改正点
1. 民事執行法の保全処分の強化
(1) 改正の趣旨
占有屋等による不動産執行妨害対策として、債務者や占有者に対する各種保全処分を強化した。特に、不動産の占有者が次々に変わる方法等による執行妨害に対処するために、相手方を特定しないで保全処分ができるようになり、占有移転禁止の保全処分の制度が新設された。
(2) 改正された法律
民執法55条
同 法55条の2
同 法77条1項
同 法83条の2
(3) 改正のポイント
[1]
売却のための保全処分等の発令要件を緩和(民執法55条)。
売却のための保全処分等の発令要件を緩和した。従来は、不動産の価格を「著しく」減少する行為又はそのおそれがある行為であることが要件であったが、改正法では、単に価格減少行為があれば足り、不動産の価格減少の程度が著しいものであることを要しないこととした。
[2]
保全処分の相手方を特定しないで保全処分の発令ができるようになった(民執法55条の2)。その場合には、保全処分の執行時に不動産を占有していたものが相手方となる。
[3]
占有移転禁止の保全処分(新設)(民執法55条1項3号、77条1項3号、83条の2)。
保全処分の執行がされた場合には、その後に占有の移転があったときでも、保全処分の相手方に対する引渡命令に基づいて、現在の不動産の占有者に対する不動産の引渡の強制執行をすることができる。
[4]
公示書等を損壊した者には→刑事罰(同法204条1号)。
2. 内覧実施命令制度
(1) 新設の趣旨
競売手続きにおける情報開示を極大化し、買受人に対する情報を確保して、不動産競売の円滑化を図る。従来の三点セットという書面による情報のみではなく、直接物件の概要をみることができるようにすべきというニーズがあった。
(2) 新設のポイント(民事執行法64条の2)
不動産の買受け希望者に競売不動産に立ち入らせて見学させる内覧制度を創設した。
内覧は、差押債権者の申立に基づいて、執行裁判所の命令により、執行官が実する。申立ができるのは差押債権者に限られ、買受希望者からは申立ができない。
内覧実施の申立は売却実施命令のときまでにする(同第2項)。内覧の実施は、売却の実施のときまで(同第3項)。
3. 不動産明渡執行の実効性の向上
(1) 改正の趣旨
不動産明渡請求権の実効性を確保すること。
占有者が次々に変わる方法等による執行妨害に対する対策((3)の改正のポイント[1]参照)および明渡執行それ自体の合理化((3)の改正のポイント[2]、[3]参照)。
(2) 改正された法律
民保法25条の2
民執法27条3項
同 法168条の2
同 法168条
(3) 改正のポイント
[1]
債務者不特定での執行文付与(民保法25条の2、民執法27条3項)。
[2]
明渡しの催告*を法制度化。
催告後の占有者の変更があってもその者に対する承継執行文の付与を要しないで強制執行することができるようになった(民執法168条の2)。
[3]
執行官の質問等の権限。
質問に応じない場合の刑事罰(民執法168条)。
*
明渡しの催告について
執行官は、不動産の明渡しの強制執行の申立てがあった場合、債務者が不動産を占有しているときは1ヶ月の期間を定めた明渡の催告をする。明渡の催告があったときは、引き渡し期限を執行現場に公示する。また、明渡しの催告があったときは、債務者は占有を移転してはならないものとし、執行官は引渡日において、債務者以外の者が不動産を占有する場合であっても、その者に対する承継執行文の付与を要しないで強制執行することができるようになった。
4. 間接強制の適用範囲の拡張
(1) 改正前
間接強制の補充制(民執法172条)
債務者を心理的に圧迫する間接強制の方法は、債務者の人格尊重の見地から、他の方法による強制執行ができない場合に限り許されるという考え方。
(2) 改正の趣旨
事案によっては、間接強制の方法によるほうが迅速かつ効率的に執行の目的を達成することができる場合もあり、間接執行をより使いやすくすることで、権利実現の実効性を確保しようとした。
(3) 改正のポイント(民執法173条)
間接強制の適用範囲の拡張。
直接強制、代替執行ができる場合であっても、間接強制ができるようになった。両者は債権者の選択によって順序をつけることなく自由にできるようになった。
物の引渡し債務、代替的な作為債務、不作為債務→間接強制ができるようになった。
5. 財産開示制度の新設
(1) 改正前
金銭債権に基づく強制執行の申立をするには、債務者の財産を特定しなければならない。
債権者が債務者財産に関する十分な情報を有しない場合には、勝訴判決等を得ても、その強制的実現を図ることができなかった。
(2) 改正の趣旨
債権者が債務者財産の十分な情報を有していない場合にも強制的実現を図ることができるようにするため。権利実現の実効性を確保する見地から。
(3)改正のポイント(民執法196条以下)
財産開示手続き創設。
<手続きの流れ>
債権者等の申立
→裁判所が財産開示手続きの実施決定
→債務者の自己財産についての陳述(非公開)。
6. 扶養義務等にかかる金銭債権に基づく強制執行の特例の新設
(1) 改正前(民執法30条1項)
期限到来が強制執行の要件
(2) 改正の趣旨
手続き的負担を軽減する必要性
養育費請求権等、特に離婚に伴う子供の養育費についての履行を確保すべきだということが社会問題とされていた。不払いがあるごとに強制執行の申立をするというのは大変煩雑であり、費用もかかるといわれていた。
(3) 改正のポイント(民執法151条の2)
[1]
継続的給付にかかる債権について期限が到来していない分の定期金についても一括して強制執行を開始できる。
[2]
差押禁止債権の範囲を縮減 「4分の3」→「2分の1」へ。
7. 動産競売
(1) 改正前(民執法190条)
従来、動産競売開始には、債権者は、占有者の差押承諾文書または目的動産の提出が必要だった。
(2) 改正の趣旨
動産先取特権のように債権者が目的動産を占有せず、占有者の協力がない場合には、事実上担保権の実行が不可能になってしまうという問題があった。このような問題を解消するための改正。
(3) 改正のポイント(民執法190条、192条、123条2項)
債権者が目的動産の提出や差押承諾文書を提出しなくても、債権者が担保権の存在を証する文書を提出すれば、裁判所の許可により競売の開始ができるようになった。
これによって、債権者が目的動産を占有せず、目的動産を占有する債務者等の協力が得られない場合であっても、担保権の実行が可能となった。
8. 差押禁止債権の範囲の変更
(1) 改正前
生活に必要な生計費1か月分、食料、燃料等2か月分→差押禁止
(2) 改正の趣旨
現物で所持は稀。
(3) 改正のポイント(民執法131条2号、3号)
生計費2ヶ月に、食料、燃料を1ヶ月に。
(文責 弁護士 呰 真希)2004.4.30
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