新しい法律の解説 平成15年担保・執行法改正の解説(総論)

担保物権及び民事執行制度の改善のための民法等の一部を改正する法律

 平成15年、第156回国会において、担保制度および執行制度の大規模な改正が行われました(担保物権及び民事執行制度の改善のための民法等の一部を改正する法律)。

1. 改正の背景
 今回の改正の背景には、かつての土地神話が崩れ、担保に取っていた不動産の価格が暴落し、抵当権を実行しても被担保債権の回収が困難となる事例が多発したことがあります。そこで、抵当権を実行せずに長期的な回収が考えられるようになるなど、社会・経済情勢の変化への対応等の必要がありました。
 このような背景から、抵当権妨害に利用されるような各種制度、その他の担保物権の効力等に関し、実体法(民法)及び手続法(民事執行法)の両面について見直しが行われました。

2. 改正の目的
 今回の改正には、抵当権等の担保物権の内容及び実行手続を、現代の社会・経済情勢に適合したものに改めるという目的の他に、権利実現の実効性を確保するために、民事執行制度を強化するという目的があります(法務省ホームページより)。

3. 改正のポイント
  (1) 担保法制に関する改正のポイント
 抵当権妨害の事例や、不動産の価値の暴落による被担保債権の回収が困難となる事例が多発した背景から、抵当権妨害を排除し、抵当権によって担保されている債権の回収をしやすくしようというのが、今回の改正の大きな目的のひとつです。したがって、民法に関する改正で重要なものは抵当権に関する改正です。主な改正は[1] 担保不動産の収益執行制度の新設 [2] 抵当権消滅請求制度(改正前の滌除制度) [3] 短期賃貸借制度の廃止および短期賃貸借保護制度などです。
 また、抵当権に関する改正の他に、担保物権の規定の合理化が図られました。具体的には、雇用関係の先取特権および指名債権の債権質についての改正などです。
(2) 執行法制に関する改正のポイント
 執行法制に関する改正は、権利実現の実効性を確保するために、民事執行制度を強化するという目的でなされました。
[1] 不動産担保権の執行妨害対策
 執行妨害対策のための改正が必要となったのは、従来の執行妨害のための制度では十分対応できなくなってきていたという背景があります。
 執行妨害、特に不動産を占有する不動産執行妨害について、誰が占有しているか外見から明らかではないケースが増え、相手方の特定が困難な事例が少なくなくなってきたことなど、執行妨害の手口がより複雑で陰湿になってきたのです。
 このような現在における執行妨害への対策として、保全処分の発令要件の緩和、相手方の特定が困難な場合に相手方を特定しないで保全処分を発令することを認める、競売不動産の内覧制度の創設などの改正がなされました。
[2] 一般債権者からみた権利実現の実効性の確保
 今回の改正により、権利実現の実効性確保の観点から、不動産明渡執行の実効性の向上、間接強制適用範囲の拡張、財産開示手続きの創設、少額定期給付債務の履行確保のための手当てなどがなされました。
[3] その他
* 動産担保
 従来、動産競売開始には、債権者が占有者の差押承諾文書または目的動産を提出することが必要でした。しかし、これでは、担保目的物を占有している債務者が担保権者に協力しない場合には、事実上担保権の実行が不可能になってしまうので、動産担保権の実効性を確保するために、動産担保権の実行の手続きが改正されました。
* 債務者保護
 差押え禁止財産がより合理的な範囲に変更されました。

* 詳細につきましては、こちらをご覧ください。

4. 参考文献
* QA改正担保・執行法の要点 ―新旧対照表付―
編 著  遠藤 功・山川一陽・須藤英章
発行者  新日本法規
* 旬刊金融法務事情 第1682号、1700号
* 「担保物権及び民事執行制度の改善のための民法等の一部を改正する法律の概要」法務省ホームページ
* 「第156回国会(常会)提出主要法律案」法務省ホームページ
(文責 弁護士 呰 真希)2004.4.1、2004.4.30

投稿者等

鳥飼 重和

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