新しい法律の解説 平成15年下請法改正の解説
下請代金支払遅延等防止法の改正
下請法(正式名称は「下請代金支払遅延等防止法」)が改正され、平成16年4月1日より施行されました。今回の改正により適用範囲が広がったため、ソフト作成分野・サービス分野の事業者の方は特に注意する必要があります。そこで今回は、改正された点を中心に下請法についてご紹介したいと思います。
1. 下請法とは
下請法とは、親事業者が、その優越的な地位を濫用し、下請事業者の利益を害することを防止する法律です。
2. 下請法の規制を受けるのはどのような事業者ですか?
(1) どのような取引が規制の対象となっているのですか?
…規制対象取引の拡大
従来、下請法の規制対象は製造業、すなわち物品等の製造・修理を委託する取引だけでした(注:旧法下では、金型の製造を下請に出す場合は除外されていましたが、今回の改正により、金型の製造を下請に出す場合も下請法の適用を受けることになりました)。
しかし、経済のソフト化・サービス化が進むにつれ、かかる分野についても規制対象にする必要が生じてきました。
そこで今回、規制対象をソフト作成分野・サービス分野の事業者に広げることを中心に改正が行われました。
新しく規制対象となった分野の取引は、以下の取引です。
[1] 情報成果物の作成に係る下請取引
Ex.1 ソフト開発業者が、ゲームソフトのプログラムの作成を他のソフトウェア開発業者に委託する場合
Ex.2 広告会社が、広告主から制作を請け負ったテレビCMの制作を広告制作業者に委託する場合
[2] 役務の提供に係る下請取引
Ex.3 運送業者が、請け負った運送のうちの一部を他の運送事業者に委託する場合
Ex.4 自動車ディーラーが、請け負った自動車整備の一部を自動車整備業者に委託する場合
(2) 規制対象取引を行う業者は誰でも規制を受けるのですか?
…資本金区分の整備
下請法の規制対象は、優越的地位を濫用するおそれのある“親事業者”です。下請法は、親事業者に該当するか否かについて、資本金額又は出資の総額で判断しています(以下「資本金区分」といいます)。
そこで、今回の改正で新しく規制対象となった
[1] 情報成果物の作成に係る下請取引
[2] 役務の提供に係る下請取引
を行っている事業者の方についての資本金区分について説明します。
【ソフト作成分野・サービス分野における資本金区分】
1. a)プログラムの作成委託・b)運送委託・c)倉庫における保管委託・d)情報処理にかかる役務提供を委託する場合
・ 親事業者の資本金が3億円を超えていますか?
資本金3億円以下の事業主又は個人と契約する場合は、親事業者として下請法の適用を受けることになります。
・ 親事業者の資本金が1000万円を超えていますか?
資本金1000万円以下の事業主又は個人と契約する場合は、親事業者として下請法の適用を受けることになります。
2. その他の情報成果物の作成・役務の提供を委託する場合
・ 親事業者の資本金が5000万円を超えていますか?
資本金5000万円以下の事業主又は個人と契約する場合は、親事業者として下請法の適用を受けることになります。
・ 親事業者の資本金が1000万円を超えていますか?
資本金1000万円以下の事業主又は個人と契約する場合は、親事業者として下請法の適用を受けることになります。
3. 下請法はどのような規制をしているのですか?
(1) 取引の際の遵守事項
… 親事業者は下請取引をする際、以下の事項を守らなくてはいけません。
[1] 親事業者は発注の際、給付内容・給付受領場所・支払代金額・支払期日等の具体的な事項を全て記載した書面を下請事業者に発注後直ちに交付しなくてはいけません(第3条)。
【今回の改正点】
実際には、発注時に支払代金が確定できない場合もあります。そこで、このような場合には、今回の改正により、内容を確定できない正当な理由を記載し、内容を確定できる予定日を記載すればよいことになりました。「正当な理由」の例としては、ソフトウェア製作を委託する場合に、最終ユーザーが求める仕様が確定していないため、正確な委託内容を決定できない場合などが考えられます。もっとも、当該事項の内容が確定した後で、直ちにその内容を補充する書面を作成し、交付する必要があります。
[2] 下請代金の支払期日を、給付受領日から起算して60日以内のできる限り短い期間内で定めなくてはなりません(第2条の2)。
[3] 親事業者は、給付内容・下請代金額等について記載した書類を作成し、2年間保存しなくてはなりません(第5条)。
[4] 下請代金の支払遅延があった場合、給付受領日から起算して60日を経過した日から、その日数に応じて年率14.6%の遅延利息を支払わなくてはなりません(第4条の2)
(2) 親事業者の禁止事項
… 親事業者は、下請業者の利益を不当に害する行為をしてはいけません。
[1] 類似品等の価格または市価に比べて著しく低い下請代金を不当に定めてはいけません(買いたたきの禁止:第4条第1項第5号)。
[2] 下請業者に何も責任が無いのに、注文した物品等の受領を拒んではいけません(受領拒否の禁止:第4条第1項第1号)。
[3] 下請業者に何も責任が無いのに、受け取ったものを返品してはいけません(返品の禁止:第4条第1項第4号)。
[4] 下請業者に何も責任が無いのに、予め定めた下請代金を減額してはいけません(下請代金減額の禁止:第4条第1項第3号)。
[5] 指定物品・役務を強制的に購入させてはいけません(購入・利用強制の禁止第4条第1項第6号)。
[6] 下請事業者から不当に金銭・役務の提供をさせてはいけません(不当な経済上の利益提供要請の禁止:第4条第2項第3号)。
[7] 下請業者に何ら責任が無いのに、費用を負担せず、不当に注文内容を変更し、または受領後にやり直しをさせてはいけません(不当な給付内容の変更・不当なやり直しの禁止:第4条第2項第4号)
など、下請事業者の利益を害する行為が禁止されています。
【今回の改正点】
実際には、発注時に支払代金が確定できない場合もあります。そこで、このような場合には、今回の改正により、内容を確定できない正当な理由を記載し、内容を確定できる予定日を記載すればよいことになりました。「正当な理由」の例としては、ソフトウェア製作を委託する場合に、最終ユーザーが求める仕様が確定していないため、正確な委託内容を決定できない場合などが考えられます。もっとも、当該事項の内容が確定した後で、直ちにその内容を補充する書面を作成し、交付する必要があります。
(3) うっかり違反に要注意!
… 下請事業者に不利益な行為を押し付けるつもりではなくても、下請法に違反してしまう事もあります。
下請事業者に特に不利益な扱いをしていないつもりであっても、意識せずに下請法に違反していた、という場合もあるので、注意が必要です。
Ex.1 発注後、下請事業者との間で単価の引下げについて合意が成立したため、既に発注済みの製品についても新単価を適用することにした場合⇒下請代金減額の禁止(第4条第1項第3号)に反する可能性があるので、新単価の適用は今後発注する製品に限る必要があります。
Ex.2 ソフトウェア製作を下請事業者に委託していたが、最終ユーザーの意向により仕様が途中で変更され、下請事業者が当初の指示に基づいて行っていた作業が一部無駄になってしまった場合⇒無駄になった作業に対しても対価を支払わないと、不当な給付内容の変更の禁止(第4条第2項第4号)に該当する可能性があります。
4. 下請法に違反するとどのような処分・行政罰があるのですか?
[1] 公正取引委員会等は、下請取引に関する報告を求め、立入検査をすることができます。
[2] 公正取引委員会は、違反親事業者に対して勧告などの行政処分を行うことができます。
【今回の改正点】
従来は、勧告に従わなかった場合にはじめて違反の内容を公表することになっていましたが、今回の改正により、公正取引委員会は勧告したこと自体を公表することができるようになりました。
[3] 書面の交付義務違反、書類作成・保存義務違反、虚偽報告等に対しては、担当者個人および会社に対し、罰金刑が設けられています。
【今回の改正点】
改正により罰金の最高限度額が3万円から50万円に引上げられました。
5. まとめ…“下請事業者の視点”をもつこと
今回の改正により、下請法の規制対象となる事業者が広がりました。今まで規制対象でなかった事業者の方も下請法にご留意いただきたいと思います。
その際のポイントは、
[1] 下請法の適用対象となる下請取引を行っているか?
[2] 下請法に定める資本金区分により、親事業者に該当するか?
をチェックし、親事業者に該当する場合には、
[3] 下請事業者の視点から取引を再検証する
という作業を怠らないことです。
下請法の違反の可能性がある場合は、専門家からアドバイスを受けるなどして、直ちに是正しましょう。そして何よりも大切なのは、取引を始める前に、その取引を検証し、あらかじめ公正取引委員会や専門家に相談することです。
[参考文献]
* 「改正下請取引適正化推進講習会テキスト」公正取引委員会
* 「はやわかり!“改正”下請法」公正取引委員会
* 「独占禁止法概説」根岸哲/舟田正之著(有斐閣)
* 公正取引委員会HP
(文責 弁護士 内藤 雅子)2004.6.3
投稿者等 |
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