税務訴訟 税務訴訟の基礎実務 (4)
税務訴訟の基礎実務 (4)
税務訴訟実務における納税者の不利益は、更正処分等に理由の付記が原則化されていないことにもある。行政手続法には、行政庁が国民に不利益な処分をするには、理由を付記することが要請されている。
このように理由の付記を要求するのは2つの趣旨からである。1つは、行政庁が国民に不利益な行政処分をするには理由を書かないといけないことから、自ら行う行政処分が適法なのかの確認ができることになる。このことによって、行政庁による行政処分の乱用を防止することになる。
もう1つは、行政処分を受ける国民は行政処分の理由をみることによって、行政処分が適法なのかどうかの検討ができる。このとこによって、行政処分を受けた国民は行政処分を不服申し立て手続き・訴訟手続きで争うべきかどうかについて意思決定ができるようになる。これによって、国民は裁判所で裁判を受ける実質的な保障を確保できる。
ところが、税法の世界では国税も地方税も、理由の付記を要求した行政手続法の規定を適用されないように規定が設けられている。これを適用除外規定という。この規定によって、課税には原則的には理由が要らないことになっている。
そのため、例えば、新たに10億円の納税をするように要求する相続税更正処分等の通知書の理由欄は、白紙のままである。そのため、納税者はなぜ自分が新たに10億円の納税をしなければならないかを知りえない場合がある。
これでは、納税者は争うべきか争わないで納税すべきかの意思決定はできない。したがって、納税者は実質上裁判を受ける権利を行使する機会を失った状態になる。
その反面、更正処分する課税庁は、改めて更正処分の適法性に関する自らの検討の必要性がなくなるから、更正処分を気楽にできることになる。この結果、実際には、更正処分をするときに適法性の検討と証拠の収集をしていないと思われる事例にぶつかることになる。
現代の日本憲法は、王政において王による恣意的な課税に対し市民が戦って獲得した西欧の近代憲法を源流とする。この歴史的精神を理解すれば、行政処分の中では、課税処分が最も国民の権利・利益が保障されるべきは明らかである。
にもかかわらず、税金に関する法律は、理由の付記を不要とする例外をつくり、そのことによって、行政処分の中で最も国民の権利・利益をないがしろにするものになっている。歴史的精神をないがしろにする国家に、国民と世界の信頼が集まるはずもない。
その結果、現在の日本は、国家の信頼を重視しない反道徳的国家になってしまった。政治の混乱の大きな要因がここに現れている。税金は国家の血液であるから、血液がにごっては正常な国家運営は成り立つはずもない。
この点に関しては、残念ながら日本の裁判所は、国民の権利・利益には目を向けていない。理由を書いていない課税処分を適法と判断しているからである。歴史的に、ヨーロッパは立法を信頼し、アメリカは司法を信頼している。
日本は、課税面に関して、立法も司法も信頼される存在になっていない。ここでは、行政は安心して「泣く子と地頭に勝てない」社会を楽しむことができる。恣意は喜びを招くからである。
私は、課税処分に理由を付記しないことを定めた適用除外規定は、憲法で保障されている国民の裁判を受ける権利・適正手続きを保障する条項・国民の幸福を追求する権利に反し、違憲無効であると信じる。
日本が、この常識が通用する国家になるよう我々は努力を継続しなければならない。勇気ある国会議員、あるいは、勇気ある裁判官が出現するのを待ちつづけよう。それによって、我々は、国家を信頼できる社会を子供たちに残すことができる。このことが我々の使命に他ならない。
(文責 鳥飼重和)
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