税務訴訟 税務と社会経済
税務と社会経済
私の専門分野は、商法とくに会社法と税務訴訟である。本来の仕事からすると、会社法と税務訴訟は別である。それぞれ相談者・依頼者を異にしている。しかし、最近は会社法と税務訴訟が接近していることが多い。結論的には、会社法は社会経済の実情に対応しようとして変化しているのに、税法は社会経済の実情に対応しようとしないで、会社法の変化を阻止しようとしていることから対立が生まれているためである。
例えば、商法は企業の経営効率を高め、国際的競争力を強化するために、企業組織の再編のために改正をしてきた。株式交換・会社分割等である。この組織の再編は、換言すれば、企業の資産の部における大幅な組換えである。日本全体のことを考えれば、日本企業の全体の資産を適正配分して組換えることが日本企業の国際的競争力を強化する最善の方法である。そのためには、この資産の組換えに税制の支援が必要である。
しかし、現実の税制は、グループ企業内再編か共同事業の場合にしか税制支援をしないとした。これでは、日本企業のダイナミックな資産の組換えが困難になる。しかも、会社分割に関しては、今もって、通達すら出されていない。これでは、せっかく商法が用意した資産の組換えが税制によって支援されているとはいえない。
昨年の商法改正で新株予約権が認められたが、それを付与する対象が限定されていないため、いろいろな利用法が考えられるところ、対象が個人の場合の所得区分はどうなるのであろうか。新しい制度ができた場合には、税法の従来の古い概念をあてはめることには無理がある。新しい酒は新しい袋こそ相応しいのである。今の所得区分は、現在の所得のあり方に即していない。根本からの改正をすべきである。
同じ会社にいながら、会社が社会経済の大変化に対応するためにする革命的な制度改革を実施している。そのときに、税制が変化の無かった時代の規定・概念で課税してくるのは困ったものである。たとえば、従来は、退職は、ある会社を辞める事がコンセプトの中核であった。しかし、現在の企業における制度改革は革命的なほどであるので、会社を辞めなくとも「退職」と認めるべき場合がある。
取締役と同じ役員としての処遇の執行役員になるときに、従業員を退職したとして退職金を支給しても、それは所得区分上退職金扱いすべきである。ところが、それを退職金でないと考える課税職員がいる。それは、「退職」概念が時代に対応していないからである。
取締役に対し、従来の退職慰労金制度をやめて、業績連動型の報酬体系を採ろうとしたとする。その場合に、従来の取締役に対し退職慰労金を支給すると、その後も取締役に再任される場合には、退職所得としないのか。これは、実質的に見れば、ある会社から別の会社に移ったと同視できる。制度が全く違うからであえる。また、業績連動型の報酬は、役員の場合には、従来の考え方であると「賞与」になる。ということは会社として損金にならないことを意味する。この点については商法が改正された場合には、速やかに税法を改正すべきである。いずれにしても、商法改正を生かすも殺すも税制次第である。
(文責 鳥飼重和)
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