税務訴訟 公益法人の課税問題と裁量権
公益法人の課税問題と裁量権
最近の報道によると、公益法人の公益事業を原則課税にするという政府案があるという。
従来、公益法人の公益事業は非課税であったのを、原則課税とし、例外として公益性があると判断されたときに非課税とされる内容のようである。
政府の考え方は、公益法人の設立を許可制から準則主義に改めることで、公益法人が容易に設立され、その結果、公益法人の公益事業が非課税である点を利用され、課税逃れをする輩が多数出るのではないかという点を心配し、それへの対応を重視したのである。
その点だけを見ると、政府案の考え方を理解できないことはない。確かに、公益法人の設立が容易になれば公益法人を利用した課税逃れを考える者が出てくることは予想できる。
「公益事業」であるという点を利用して課税逃れをする者には、課税当局が十分な調査をし、公益事業でないとして否認することで対処できるはずである。
ただ、課税庁からすれば、その調査を十分するのは面倒であるし、否認しても修正申告に応じない公益法人とは不服申立・税務訴訟を覚悟しなければならない。
したがって、課税強化を容易にするには、従来のように公益事業の否認をするよりも、公益事業を原則課税とし、例外としての公益事業であるときに非課税とすることにし、その非課税判断を課税庁の裁量にすることが望ましい。
課税庁の裁量となれば、その裁量を明らかにするために、国税庁が通達によって法令解釈を示すことになる。この解釈が曲者なのである。
法令の「解釈」には、必然的に「立場」「意図」等の解釈する者の主観が介入する。国税庁が解釈するのであれば、課税庁の立場・意図等の主観で法令が解釈される。
この解釈は、納税者の立場を無視して、納税者に不利益な基準を立てることができる。しかも、税務の実務は現状では通達行政であるから、当事者の一方である課税庁の立場で作られた通達が法令と同視できる強制力を持つ。
換言すれば、課税庁の裁量に任せるとは、裁量ではなく、法令自体に転換されるということになるのである。この現実は、残念ながら、法の支配を任務とする裁判所が認めているのである。
したがって、今回の公益法人の公益事業への原則課税化は、例外の判断を課税庁にまかせることで、原則どおりの課税になる確率が高くなる。
これによって、公益法人を利用して課税逃れをする者を摘発することよりも、悪意のないために法的準備の十分でない善良な公益法人が不当に痛めつけられる可能性がでてくる。
税法も法律であるから、法律一般にも言えることであるが、課税実務では「悪い奴ほど良く眠る」という現実がある。悪い奴ほど、課税に対し法的に周到な準備をするから、課税庁は摘発しにくいのが現実である。
その現実を突き破るのは、課税庁職員のあくなき正義感に基づく徹底的な調査活動である。
しかし、最近の課税庁の課税実務を見ると、上記の正義感に基づく調査による課税よりも、もっと楽に課税できる対象で課税しているとも見うる課税が行われていないとは言いがたい。
このような巨悪を叩き潰す調査を避け、容易な課税を求める実務が一部にでもあるとすれば、今回の公益法人に関する課税強化は、まともな公益法人ほど悩ましいものとなろう。
(文責 鳥飼重和)
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