税務訴訟 ストックオプション税務訴訟判決に思う その2
ストックオプション税務訴訟判決に思う その2
前回、租税法の基本である民主主義の要請と自由主義の要請について述べた。特に、自由主義の要請では、課税が納税者の予測できることの重要性を強調した。
課税庁は、昭和60年以来、本件と同様のストックオプションの行使益に対する課税では、「一時所得」と解釈していた。
この課税庁の解釈は、当時の考え方では、本件のストックオプションを「給与所得」の概念に含まれないと判断したのである。
所得税法28条1項は給与所得を「棒給、給料、賃金、歳費及び賞与並びにこれらの性質を有する給与に係る所得」と規定している。
棒給、給料、賃金等の例示の文言は、いずれも確実に経済的利益を受け取れることを内容としている。到底、経済的利益がない場合を予想していると読むことはできない。
社会通念でも、給与所得は労務の「対価」であるから、確実に経済的利益を受け取れることを内容としていると考えていたといえる。「価」は、経済的利益の存在を内容としている。
課税当局も、そのように考えて、昭和60年以来、本件のストックオプションに関する課税を給与所得としないで、一時所得としたのではないだろうか。
その結果、従来の給与所得の概念は、本件ストックオプションの行使益を含んでいないと納税者は予測していたのである。
そうだとすれば、課税庁が従来、本件ストックオプションの行使益の課税を一時所得で申告するように指導したのは、「誤指導」ではない、正しい指導だったのである。
本件ストックオプションは、その行使益という経済的利益の額がいくらになるかについてはストックオプションを付与された者のそれを行使する時期の株価によるという偶然的要素がある。
しかも、株価次第では経済的利益を全く受けられない場合もあるのであるから、従来の給与所得概念に含まれると納税者は予測できない。
本件ストックオプションの行使益を「給与所得」として課税したいのであれば、納税者の予測に反しないように従来の所得概念を変更し、それを納税者に分からせるために所得税法28条1項の給与所得の新しい概念を明らかにすべきである。
その後に、課税庁が本件ストックオプションの行使益の課税を給与所得としても誰も文句はつけない。今回のように、100人以上の納税者が課税庁の更正処分を争うようなことはありえない。
もう1点、従来の給与所得は、労務の提供をした「相手方=使用者、から受ける」ものを想定していたのである。この点に関して最高裁判所昭和56年4月24日判決は、「給与支給者」との関係で何らかの拘束を受け、労務の提供があった場合を給与所得概念としているとしていた。
したがって、労務の提供をしていない者=使用者以外の者、から受け取るものを給与とは考えないのが納税者の予測しているところである。
この点でも、課税庁が労務を提供していない「給与支給者以外の者」から受ける場合でも給与所得をしたいのであれば、法律改正でその点を明らかに変更すべきである。
いずれにしても、法律解釈をする場合には、素直に通常の納税者が予測できたと見ることが出来るかどうかを重視すべきである。
従来の法律では通常の納税者が予測できないと見られる場合には、法律を改正し、納税者に分かるようにしてから新しい法律によって課税をすることが許されるというべきである。
このような社会の常識を基礎にして、今回の東京地裁民事2部の判決は構成されている。その意味で、この判決は納税者の納得できる正しい判決である。
(文責 鳥飼重和)-2003.9.10
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