平成13年商法改正 会社分割と税制のミスマッチ

 従来は、商法を基礎に税法と企業会計がトライアングル体制を形成していた。しかし、税法が増税のために無理をし始めたために、企業会計が税法からの分離を宣言し、他方、企業会計は連結ベースを原則化したため、単体企業ベースの商法から分離した。そのため、現在はトライアングル体制が崩壊している。

 現在は、商法・税法が単体企業を前提にしているのに対して、証券取引法は連結決算を原則としてグループ企業を前提としている。企業社会の現状は、単体経営ではなくグループ経営であるから、法律も実態に則したものであることが望ましい。今後は、現状に適している証券取引法を中心に、税法が2002年から連結納税を導入するようであり、商法も2002年の大改正で証券取引法に近づくと思われる。その結果、将来は証券取引法を中心とした新しいトライアングル体制が生まれる可能性がある。

 そうだとすると、日本社会は証券市場を中心とした本当の資本主義市場に変わることになろう。その意味では、証券市場を中心にすることで、1940年体制からやっと開放されるといえよう。

 従来の日本は、誰が見ても、官僚が支配する社会主義的国家であった。「法の支配する国家」とはいえなかった。そのため実質的には、企業行動は、官僚による規制で自由が大きく縛られていた。官僚にすれば、「俺たちの言う事を聞いていれば間違いない」という自信があったのであろう。経済が、教科書の知識だけで理解できた時は、確かに官僚の指導は日本を発展させた。しかし、経済が教科書では到底理解できない状況になった時は、官僚統制は迷走し、日本経済を奈落の底に突き落とした。官僚は責任を避けるために、思い切った政策が取れず、逐次投入という日本軍が太平洋戦争で失敗した時と同じ過ちを繰り返したからである。

 これからは、市場のことは民間に任せればよい。キャラメルママみたいに、民間のやることに対して細かいことまで口を出すのは止めるべきである。民間の活力をいかに引き出すかにこそ、官僚の力を発揮していただきたい。

 ところが、民間が「選択と集中」のため、事業再編をする手法として商法が新たに創設した会社分割は、事業再編を企業がダイナミックにしようとするのを妨害するような税制になりそうである。

 会社分割は株券によって事業を再編する手法であり、公開会社にとって株価引き上げの有力な制度であった。株価を引き上げることが課題になるならば、最も有効な方法が会社分割なのである。それを今度の税制では、同一グループ内か共同事業の場合に限定し、それ以外には課税の繰り延べを認めないというのである。

 税制によって事業の再編を促進して、日本企業の体質を強化し、大きく業績を上げられるようになれば、その結果として、法人税収入が増加するという良い循環を作れるのである。この経済の良い循環を作る事こそ、税制の役割である。それを忘れて、今の税収だけを考えて事業の再編を最小限にしか認めないのは、正しい政策とは思えない。企業の体力がない時に税金を取るのではなく、企業に体力をつけさせた上で、たっぷり税金を取ることを考えるべきである。

 税制を作る側に、経済の循環の分かる人を多く起用すべきではないだろうか。今回の会社分割に関する税制については、「知恵」を感じない。これで、今後の知識経済社会を乗り切れるのか心配である。

(文責 弁護士 鳥飼重和)

宝印刷株式会社 ディスクロジャーニュース2000/3 vol.17より転載

関連するコラム

鳥飼 重和のコラム

一覧へ