平成13年株主総会 株主質問への回答の範囲
株主総会において株主から質問があったときには、従来は説明義務の範囲を問題にしてきた。分かりやすく言えば、株主の質問に最小限答えなければならないのはどこまでかということである。
議案に関して、株主質問に対して商法が定める説明義務(商法237条の3)に違反したときは、決議取消原因(商法247条1項1号)となるからである。よく問題となるのが、退職慰労贈呈議案における取締役の説明義務の範囲である。古くはブリジストン事件、新しくは南都銀行事件で、退職慰労金贈呈議案に関する取締役の説明が不十分であったとして当該決議を取り消されている。
したがって、すくなくとも、議案に関する質問に対しては決議を取り消されないように、説明義務をしっかり押さえた説明が必要である。これに対して、固有の報告事項についても説明義務はあるが、仮にこの義務に違反することがあったとしても、決議取消原因とはならない。固有の報告事項には取消の対象となる決議が存在しないからである。そうはいっても、報告事項に関する説明義務もしっかり履行すべきである。
従来のように株主に来て欲しくない総会であるときは、会社のことを総会でなるべく話したくないから、法律上最小限度の説明をしたいと考えるのは自然である。いまでは、説明義務の範囲の基準が設定されている。この基準の原則は次のとおりである。
報告事項に関しては、計算書類の附属明細書の記載事項が基準になる。説明義務の範囲は附属明細書の記載事項を敷衍したものになる。
各議案に関しては、参考書類規則の記載事項を敷衍したものになる。
以上は原則であるから例外がある。
ところが、株主を投資家と見て重視するこれからの株主総会において、一般投資家に及ばない情報しか提供しない商法の説明義務の範囲を重視して、株主質問に回答することは適切ではない。
これからの総会では、株主の質問に対しては一般投資家に対すると同じ程度の情報を提供すべきは当然である。そうであれば、商法が定める説明義務の範囲での回答は、不十分と言わなければならない。
このように、これからの総会では、取締役の説明の範囲は拡大することになる。つまり、株主の質問に対し大いに情報を開示しましょうということである。そうなると、今度は取締役の総会でのしゃべりすぎが法律的に問題になる。
例えば、総会で株主が「株式分割する予定があるか」と質問したときに、答弁担当の取締役が「はい、近々、株式分割する予定です。」 と答えたとする。株式分割の予定が総会前に記者会見などで公表されていれば法律的に問題はないが、そうでないときにはインサイダー取引規制の問題に直面する。つまり、公表していないときには、株主総会での回答で言ってはいけないのである。
このように、これからの総会が株主の十分な情報を開示しようとする方向にあることから、これからは「どこまで話すことが許されるのか」の限界が問題になるのである。これも法律の問題である。
以上のように、「ここまでは話さないといけない」という法律の限界線と「これ以上はなしてはいけない」という法律の限界線という2つの限界線が、これからの株主総会をするときの法律問題となる。回答の範囲はこの二つの限界線の間ということになる。
(文責 鳥飼重和)
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