平成14年株主総会 東京スタイルの株主提案否決
平成14年5月23日に開催された東京スタイルの株主総会で、1株あたり年間配当を500円にする等の株主提案がすべて否決された。とはいっても、会社側提案の内容も、昨年の株主総会のときとは違い株主利益に1歩近づくものであり、しかも、会社側と株主側との票差も相当接近していたことは、今後のコーポレートガバナンスのあり方に大きな影響を与えることは避けられない。
株主価値を最大化することをコーポレートガバナンスの中核に置くことを論理的に考えると、今回の株主提案が可決されることが自然である。売上の2年半相当分の内部留保を保有し、そのことの説明が十分でない経営陣であったとすれば、企業の基盤を大きく崩すようなことがない限り、内部留保の相当部分を株主に還元するように株主が主張するのは、当然のことだからである。
しかし、日本の企業社会が本当に変わろうとするのは、これからであり、今のところ、企業経営の根本であるコーポレートガバナンスを経営の実践の基準として変わろうとはしていない現状からすると、今回の村上世彰氏の株主提案は、論理どおりには動かなかったのである。革命的でありすぎたのである。日本企業の現状を厳しくみて、株主提案を通して勝利宣言することを戦略とし、勝つための戦術を構築すべきであった。
具体的に言えば、1株あたり500円配当は衝撃的でマスコミ受けはするかもしれないが、リターンが従来の常識からみて極端過ぎて長期的投資をする年金基金等が株主提案に素直に賛成することが困難ではなかったか。
日本社会は空気に支配されるから、社会の空気が変わったときは格別、これから空気自体を変えようとするときには、過激な変化を拒否するのが通常である。変化の必要性を頭では理解できるが、感情が変化を受け入れず行動まで変えることはできないのである。
したがって、村上氏が1株あたり50円とか100円等の年間配当を提案していたときには、株主提案が可決されたかもしれない。
ある投資信託運用会社の幹部は次ぎのように述べている。「1度に500円の配当を出すのではなく、5年に分けて100円づつ還元するという提案ならば、賛成していた」(日本経済新聞平成14年5月24日朝刊)
村上氏には、初めに「1株500円配当ありき」の発想があったのではないか。「株主原案を可決させる」という戦略が欠けていたと評すべきかもしれない。来年また株主提案をするときに、その提案が地道な提案であれば、会社側提案を可決するには、会社側も今年以上の工夫・努力が必要となろう。
いずれにしても、徐々にではあるが、将来の日本企業の経営も、内部留保は大きければ大きいほどよいのだという従来の常識を変える必要に迫られるのは避けがたい。内部留保は何に使うのかを株主に説明ができない経営者は、株主総会運営で苦しむことになるか、敵対的買収等で経営者の地位を失いことになりかねない。時代は間違いなく株主重視の方向に進んでいる。
(文責 鳥飼重和)
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