平成15年株主総会 株主総会の新しい動き その2 ファン株主から学ぶ
その2 ファン株主から学ぶ
今年、ある食品会社の株主総会の事務局に入ったが、株主質問の一番バッターは老齢の女性株主であった。
この株主は、この会社の2つの製品を手に持って、各製品ごとの質問をした。
質問の1つは、手に持った製品を示しながらのものであった。この食品1つの包装に含まれている量が多いので、自分たち老人には全部食べられない。もっと分量を減らした製品は出来ないかというものである。
議長から、株主質問に回答する前に、「当社製品をご愛用いただいてありがとうございました」という言葉があったので、総会会場は笑いを含め、暖かい雰囲気が出てきた。
このような出だしだったこともあり、10人をはるかに超える株主質問の中で、この会社の総会は良い雰囲気のまま無事終了した。
ここで大切なことは、会社の製品を手にして質問をした人をどう捕らえるかである。換言すれば、株主というより、消費者・顧客の声として捉えるかである。
消費者・顧客の声が株主総会という場違いの場所で出たと考えると、本当なら消費者窓口に来ればいいのにと思うことになるであろう。
それに対し、この株主を会社あるいは会社の製品に対するファンともいうべき最も安定度の高い株主と捉えると、一般株主を対象に安定株主対策を本格的に考えることが出来るようになる。
最近の一般株主は必ずしも安定株主とは言いがたかった。株価が上がれば上がったで売り、株価が下がれば下がったで売るからである。
それは、会社や資本市場関係者が一般株主を大切にしてこなかったからである。大切にされなければ、邪険にするところから離れるというのは当然のことである。
本来の一般株主は、一定の時期に手仕舞いをして利益・損失を確定しなければならないわけではない。会社、製品、経営者等に対し、ファンの心情を持てば、株価の上下にかかわらず、株主でいてくれる。
したがって、本来的に、一般株主は安定株主である。かつては、松下幸之助氏、本田宗一郎氏等有名経営者がいた会社では、経営者のファンが株主になっていた例が多かった。
現在でも、典型的には、ゲームソフトメーカー等の株主の中には、会社かゲームソフトのファンとしか思われない者がいる。総会終了後に、創業経営者に色紙へのサインを求める若い世代の株主もいる。
このファンともいうべき株主を一般株主として拡大していくかを真剣に考えても良いのではないか。
株式の相互持合い構造の崩壊に備えるいろいろな方法の1つとして、一般株主のファン化、一般株主の安定株主化を考えたい。
食品会社の総会で製品を手に質問をした老齢の女性株主を見て、そう実感した。
(文責 鳥飼重和)-2003.7.20
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