平成15年株主総会 株主総会の新しい動き その5 説明義務の見直し
その5 説明義務の見直し
従来の株主総会運営方法では、説明義務が重要であった。
従来の株主総会運営は特殊株主を想定し、株主総会運営に嘴をなるべく入れさせないための工夫をした。その1つとして、株主質問に対する役員の説明を最小限度にしようとした。
そうすると、役員の説明が不十分になる可能性があり、その場合には、説明義務違反という法律違反になることも起こりうる。
そのため、説明義務という法律違反をしないための説明義務の限界が重要になったのである。
最近の株主総会の運営は、一般株主を想定し、IRを重視する方向にある。
そのため、株主質問に対する役員の説明は「なるべく丁寧に」となるために、法律違反にならないための説明の限界としての説明義務の重要性は失いつつあった。
むしろ、役員の説明が「喋り過ぎ」となり、インサイダー情報の開示等の法律違反が問題となる方向であった。
しかし、一般株主の株主総会への出席が増加傾向にあり、しかも、一般株主の発言数も増えている。この文脈において、一般株主の質問対象が報告事項だけでなく、各議案に対しても及ぶようになりつつある。
ここにおいて、説明義務の重要性が復活したと見るべきである。説明義務違反が議案について生じるときには、当該議案の決議取消の可能性の問題になるからである。
説明義務は報告事項に対するものと議案に対するものがある。説明義務違反で実務的に問題なのは、議案に対するものである。議案に対する説明義務違反は決議取消の問題を生じ、株主総会のやり直しとつながるからである。
従来の説明義務違反は、実際的には、退職慰労金贈呈の件だけであった。この点に関しては判例が確立しているので、その判例の挙げた3条件を具備する説明をすれば、従来は説明義務違反の恐れはなかった。
しかし、最近の一般株主の質問は、すべての議案に及びつつあると共に、その質問の内容が厳しくなる傾向が見える。
ここで考えるべきは、説明義務でも、特殊株主を想定した場合の説明義務と一般株主を想定した場合の説明義務が同じかということである。
議案に関する説明義務は、株主が議案を理解し、議案に関する賛否の意思決定を容易にするための情報提供をするものである。その意味では、想定する株主如何で説明義務に差異があるということはない筈である。
しかし、裁判官心理を考えれば、やはり、一般株主重視の株主総会運営に当たっての説明義務は、従来よりは情報の質量を拡げて考えるべきであろう。
議案に関する説明義務には、一般株主の立場から見るという新しい観点からの光を当てるべきである。
(文責 鳥飼重和)-2003.08.20
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