経営者に必須の法務・財務 株主代表訴訟で最も重要なポイント
株主代表訴訟は、取締役の会社に対する責任の「追及方法」という手段に過ぎない。この責任追及は、大企業であれば監査役がすべきものである。しかし、監査役が取締役を提訴することは現実的には難しいことから、会社に代わって、株主が取締役の責任追及をできるとしたものが株主代表訴訟である。
いずれにしても、株主代表訴訟は手段に過ぎないから、本来重要なのは取締役の責任自体である。この取締役責任の本当の意味を理解することが株主代表訴訟を理解することにつながる。
取締役責任の本当の意味は2つある。
1つは、企業の賠償責任は、取締役の損害賠償責任に転化するということである。つまり、企業の賠償責任を負担するについて、取締役の会社に対する義務違反が原因であったときは、取締役は会社に対し、会社がなした賠償に対し、損害賠償義務を負う。このことは、企業活動に伴って生じる巨額の損害を、取締役が個人の資力で賠償するという異常な制度が取締役の損害賠償責任の本質であるということである。ここから、取締役の責任制限が議論されるべき基礎がある。
2つには、取締役の損害賠償責任が取締役の個人責任であることから、取締役のこの責任は相続を通して、取締役の妻子に及ぶということである。実務的に言えば、取締役の会社に対する損害賠償責任が相続されることが、取締役責任の本当の意味であろう。ここでの相続問題で最も問題となるのが、取締役の妻子の固有財産が保護されるかである。2つの場合に分けて検討すると、次のようになる。
1) 取締役に対して株主代表訴訟が提起され、訴訟が開始された後に、その取締役が死亡して相続が開始した場合。
この場合は、相続時点で既に訴訟が提起されているのは分かっているから、相続人である妻子は、自己固有の財産を守るために「限定承認」「相続放棄」をなしうる。
実例として、片倉工業事件がある。
2) 取締役が死亡して相続が開始した後に、取締役の相続人である妻子を被告として株主代表訴訟が提起された場合。
この場合は、すでに相続で単純承認をしているため、民法及び従来の判例からは、限定承認や相続放棄が許されない。
実例として、ミドリ十字事件、東京都観光汽船事件等がある。
この場合には、その妻子が株主代表訴訟で敗訴し、その敗訴金額が死亡した取締役の遺産額を超えたときには、妻子の固有財産も会社に対する賠償責任の責任財産として取り上げられることがありうる。
これは取締役の遺族に不当に不利益であることから、私は民法の解釈を変更して、限定承認できるようにすべきであるという論文を書いたが、それに賛成してくれる人は、1人もいなかった。そうであるなら、やはり、立法論で取締役の責任制限をするしかない。
以上から、株主代表訴訟は商法だけの問題でないことが分かる。
(文責 鳥飼重和)
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