経営者に必須の法務・財務 株主代表訴訟と株主総会

 株主代表訴訟は、日本においてはそう頻発してはいない。確かに、平成5年の商法改正によって、一律8200円の申し立て手数料で良いことになってから、株主代表訴訟の数が増加したのは事実である。しかし、新聞で報道され株主代表訴訟になってもおかしくない取締役の不祥事の数に比べれば、実際に株主代表訴訟が提起された数は少ない。

 それは、株主代表訴訟を提起できる株主は、代表訴訟を提起して勝訴しても、何ら経済的利益がないからである。むしろ、株主代表訴訟の提起・勝訴のインセンティブは弁護士にある。それに勝訴すれば、企業から相当な額の弁護士報酬がもらえるからである。

 ところが、日本の現状の弁護士は株主代表訴訟のインセンティブを活用しようとしていない。それは、日本の弁護士数が不足気味であるから、弁護士が原告株主を公募するような提案型の業務を確立していないからである。換言すれば、日本の弁護士がアメリカのようにビジネス化せず、社会正義の実現を中心に業務に取り組んでいるためである。

 その結果、公開企業の多くの株主代表訴訟は、ビジネス弁護士主導でなく、一部を除いて株主主導のものとなっている。ということは、株主が不祥事を起こした取締役等に情緒的に許し難いと思ったときが最も危険だということである。普通の日本人は訴訟嫌いであり、訴訟するのは情緒的な面での怒りがある場合に限定されるからである。

 株主が取締役に情緒的に許し難いという思いをする典型的場面が、株主総会に存在する。それゆえに、株主総会の運営を失敗した結果が株主代表訴訟になったという例が多い。では、その典型的場面とは何処になるのか。

 それは、会社が不祥事を起こした事が報道された後に行われる株主総会で、会社による不祥事に関する報告・謝罪の姿勢が不十分である場面である。このような不祥事の際には、書面に書いたものを一括回答で報告し謝罪する方式が多い。

 これは株主代表訴訟を提起されるきっかけを与えないために、過不足ない説明をすることで説明義務違反も防止しようとするやり方である。しかも、会社側としては、経営陣が頭まで下げているのであるから、謝罪していると考えている。しかし、それは会社が考えている事に過ぎず、株主から見ると、書面を読み上げているだけでは会社が謝罪している様には見えず、むしろ、不祥事に関して会社が逃げている印象が残る。

 そのうえで、その回答に満足できない株主が不祥事に関して質問をしたときに、木で鼻をくくったような回答しかないと、株主は自尊心を傷つけられるとともに、自分を無視して会社は逃げを打ったと受け取り、株主代表訴訟を提起する動機付けがなされる。自尊心の回復と社会正義の二重奏になるわけである。

 過去の株主代表訴訟の例を見るとこのことが明らかである。したがって、株主代表訴訟への対応として、株主総会の運営が重要となる。不祥事を隠すという株主総会の運営法はすでに過去のものになっている。

 大切なのは、謝罪する側の謝罪しているつもりという心情ではなく、情報の受け取り手である株主にとって、会社が謝罪しているように受け取れるかどうかである。この受け手の側に立った株主総会の運営が重要なのである。
(文責 鳥飼重和)

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鳥飼 重和

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