経営者に必須の法務・財務 経営革命の時代の経営者
今回から、従来連載してきた「株主代表訴訟」を改題して、「経営者に必須の法務・財務」を連載することにした。現在は、企業に経営革命の時代が来ていること、企業の盛衰は将に経営者次第であることの認識から、書く範囲を拡大して改題した。
結論めくが、今後の経営者は、経営戦略において、法務と財務の基礎的知識が必須となる。この点を中心に、経営者の役に立つ情報を提供することとしたい。その前提に、今回は経営革命が起きていることを明らかにする。
経営革命は、日本的経営の基盤が崩壊過程に入ったことから必然的に起きている。従来の日本的経営の基盤は、株式の相互持合であった。この相互持合構造では、経営者は、原則的には業績向上に責任を持たなくて良かった。
せいぜい、他人資本コスト(金融機関・社債権者に支払う利息等)プラス株主に支払う配当金を上回る利益を上げればよかった。したがって、配当金を支払える利益を出す経常利益を獲得すればよかった。
しかも、従来は時価会計を導入していなかったので、土地とか株式等の含み益を使う含み益経営が認められていた。つまり、本業での利益が十分でないときは、含み益のある土地・株式等を売却して、その売却益を用いて、経常利益を捻出することが許された。
いずれにしても、従来の日本的経営では、毎期毎期の業績向上がなくとも、経営者は経営者でいられた。また、従来の経営者は、株主を代表するのではなく、従業員を代表する傾向が圧倒的であり、そのために、日本企業のコーポレートガバナンスは従業員利益を株主利益の上位に置いていた。
したがって、企業にとって過剰であることが明らかな従業員の雇用を維持することが、企業利益を害することが分かっていても、過剰雇用を維持することが経営者の使命と考える経営者が多数であった。これは社会国家主義的には正しい考え方であった。
最高裁の判例である「整理解雇」の考え方では、利益が出ている企業が更なる利益の向上を求めて経営効率を高めるために、企業の経営政策上、過剰雇用を解消するために解雇することは違法無効であった。
過剰雇用だと分かっていても、過剰雇用を維持しろという考え方は、資本主義の考え方ではない。国家社会主義の考え方である。企業が自社の存続と発展に不可欠な過剰雇用を解消しようとすることは、従業員の利益保護を考慮しつつではあるが、許されて良い。これが資本主義である。
資本主義の原点は、企業の存続と発展を国家に依存しないで、自立の精神で行くことである。したがって、そのための自由を国家に縛られるべきではない。最近の経済問題の根本には、資本主義の原点を忘れたことが横たわっている。
この資本主義の原点に戻れば、企業は利益の追求の厳しい姿勢で臨まなければならない筈である。その行き当たる所は、株主利益の最大化を図ることである。その結果として、その企業で働く者の雇用の安全が図られるのである。ここには、過剰雇用の問題は生じない。
日本的経営を支えた株式の相互持合が解消過程に入った以上は、株主・投資家の声が経営者の業績向上を要求する。したがって、今後の経営者は、株主・投資家の声に耳を傾けながら、毎期業績の向上を目指して経営改革を実行しなければならない。
経営者は資本主義の原点に立ち返る時期に来ている。
(文責 鳥飼重和)
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