経営者に必須の法務・財務 経営者が知るべき改正商法[4]
種類株式の活用法
改正商法で、議決権行使に関して内容を異にする種類株式を認めた。議決権は経営支配・経営に対する牽制に関するものであるから、会社の経営支配に関して利害関係を持ちたい者には、従来考えられなかったような多様な問題の解決につながる可能性がある。特に、経営支配に関して利害の対立を調整する機能に期待を持つ事ができる。
この議決権に関する種類株を認める改正商法は、本来的には、ベンチャー企業の経営者とベンチャーキャピタルとの利害調整を意図したものであった。ベンチャー企業の経営者が経営のプロであり、誠実な人間であれば、ベンチャーキャピタルは出資はしても、経営者への牽制を考える必要はない。
ベンチャーキャピタルからすれば、投資先のベンチャー企業が経営計画どおりに成長し上場できれば、キャピタルゲインを得られるからである。しかし、現実には、投資はしたがリターンが全く期待できないケースが圧倒的である。その原因には、投資先企業の経営者が経営を知らないとか、人間としての誠実さを欠く場合が少なくないのである。
このような投資の失敗をしないために、ベンチャーキャピタルはベンチャー企業に投資する場合には、その企業の経営者との間で、株主間契約を結ぶ。その内容は、ベンチャー企業の経営者とか経営に一定の牽制を加えるものである。この契約の有効性は認められるが、ベンチャー企業の経営者がその契約を守らないときには、商法上は、経営者とか経営に対しての効力を認めないものである。
その結果、ベンチャーキャピタルが投資先の経営を牽制しようとする意図は達成できなかった。たとえば、ベンチャーキャピタルが取締役を派遣して、経営の成果をあげようとしても、株式の多数派であるベンチャー企業の経営者が、株主総会でベンチャーキャピタル側の取締役を選任しない場合には、その取締役の選任はできないことになり、取締役派遣の株主間契約は無駄になる。
これでは、ベンチャー企業に投資しようというベンチャーキャピタルが拡大しないことから、株主間契約の内容を商法上も実現できるようにするために、議決権に関する種類株式を改正商法へ認めたのである。
改正商法は、2つの方法を用意した。1つは、平成13年の改正で認めた種類株主の拒否権という考え方であり、もう1つは、平成14年の通常国会で認められる予定の種類株主による取締役等の選任・解任権という考え方である。
例えば、ベンチャーキャピタルが経営監視のために、株主間契約に基づき、甲という取締役の選任をベンチャーの経営者に申し入れた場合にどうなるかである。ベンチャーキャピタルが議決権の全くないか、それが制限されている種類株式を持っている場合に、ベンチャーの経営者が普通株の株主総会で、甲を取締役に選任しないで、10人の取締役の選任をしたときに、種類株主であるベンチャーキャピタルが10人の取締役選任決議の効力を否定するのが種類株主の拒否権というものである。
定款に規定すれば、種類株主の総会で普通株主の総会・取締役会における一定の決議の効力を奪う事ができるのである。これによって、普通株の多数派であるベンチャーの経営者は種類株主であるベンチャーキャピタルの言い分を通す必要がでてくる。これによって、ベンチャーキャピタルは経営監視を商法上獲得できる。
もっと直接的なものが、取締役等の選任・解任権である。前述の例であれば、これも定款の規定が必要であるが、種類株主の総会で、初めから、取締役甲を選任する事ができるのである。もちろん、種類株主は種類株主総会で取締役甲を解任することもできる。
このように、議決権に関する種類株式を商法が認めた事で、会社に出資する場合に、経営にある程度の牽制をする必要があるときには、種類株主は種類株主総会を利用して経営を牽制する商法上の手段が与えられる。それのよって、会社における多数派と少数派の関係も新しく創造できることになったのである。
(文責 鳥飼重和)
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