経営者に必須の法務・財務 内部告発

 時代の流れの速さを感じさせるのが、内部告発者に対する社会の考え方の変化である。

 平成14年5月に、国民生活審議会が、内部告発者を保護するための立法提案をしたが、これに対し、経団連は、反対の意思を明らかにした。

 ところが、経団連は、その後、半年も経過しない平成14年10月に企業行動憲章を改定し、「企業倫理ヘルプライン」の整備を規定した。これは内部告発者の相談窓口の設置を要請したものである。

 この急速な変化は、東京電力による記録改ざん事件等が内部告発をきっかけにして発覚したことが原因である。このほか、内部告発によって事件化したものは、雪印食品偽装牛肉事件、日本ハム子会社の偽装牛肉事件、三菱自動車リコール事件、協和香料化学事件、東京女子医大手術ミス事件等があった。

 従来の日本社会は、共同体社会であり、法律・社会倫理等の社会的規範よりも、共同体の規範である「掟(おきて)」が重視された。その意味で、規範的にはダブルスタンダードであった。

 ある意味では、社会的規範の外にある「掟(おきて)」を重視するのであるから、アウトローの発想でもある。企業社会がアウトローの反社会的勢力と同じ発想であったところに、従来の企業不祥事が「類は友を呼ぶ」といえる状況を作っていたのかもしれない。

 それに反し、法の支配の下での自己責任が求められる自由競争社会では、社会的規範である法律を企業社会内部の規範とする必要がある。したがって、従来の共同体社会における掟よりも、法律を重視し、法律に反することを社内的に明らかにする手段として内部告発が許容されることになる。

 いずれにしろ、内部告発は、今後、法律で保護される方向にあることは否定できない。そう考えると、社内での掟を優先するやり方は、維持できない。

 コンプライアンスの確立は、企業社会にとって必須のことになったのは明らかである。公開企業であれば、取締役会でコンプライアンス体制を整備すべきことになる。コンプライアンス体制を整備できない取締役は、管理体制整備義務にそむいたとの評価を受けることになる。

 従来、取締役は法務を知らなくてすんだが、今後は、コンプライアンスを含む法務に対する正しい認識を持たない取締役は取締役の適確性を欠く時代になるのではなかろうか。
(文責 鳥飼重和)

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鳥飼 重和

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