経営者に必須の法務・財務 従業員は投資家か

 投資家は、ある会社の業績・株価等の将来に目を向けている。その会社の将来は期待できるのか、それとも、将来は危険なのか。

 この将来についての期待と不安の狭間で心が揺れている。
 これが投資家の宿命である。

 投資についての考え方は株価を中心に考える者と株式=企業自体を中心に考える者があるが、いずれにしても、将来に関しては大なり小なり、期待と不安があることに変わりがない。

 会社のIRは、投資家に対し一貫した透明度の高い情報開示を継続する。その結果、投資家の信頼を獲得して、最終的には、会社の将来に対して期待する傾向を保持してもらおうとする活動である。

 これに対し、従来の従業員、特に公開会社の従業員は会社及び自分(家族を含む)の将来に対しては絶対に近い安心感を持っていた。

 会社は倒産することはない。終身雇用であり、年功序列であるから、将来は給与も地位も上がることが期待できた。

 退職した時も、相当な額の一時退職金がもらえた。退職後では、確定した額の年金を受け取れると期待できた。

 つまり、ある程度の規模の会社に就職すれば、将来について心配する必要がなくなったと考えるのが社会常識であった。

 その結果、将来に絶対の安心を与えてくれる会社に対しては忠誠心を持つ。極端な場合には、会社と結婚したような状態になり、会社、同僚との一体感の下で、家族まで忘れて仕事をする企業戦士となった。

 場合によっては刑罰法規に違反しても、あえて、会社利益のために行動することを躊躇しなかった。
サラリーマンが、ヤクザ映画のヒーローである暴力団員の行動に感動し、涙を流すのは、自分の心情に重なるところがあるからである。

 従来の日本企業の強みは、会社という組織のために命をかけて働く優秀な従業員がいたからである。

 ところが、最近は、終身雇用を放棄したようなリストラの嵐が荒れ、年功序列もなくす方向が常識化している。

 その上、公開会社であるから倒産しないとは言いがたい時勢になっている。同時に、退職金や年金の見直しがなされ、従業員の退職後の生活の安定が脅かされ始めている。

 このように、現在の従業員は、会社及び自分の将来に不安を持ち始めている。その意味では、投資家と同じ心情になっている。

 投資家的立場の従業員に、会社に対する忠誠心を期待することは出来ない。そうなると、従来の日本企業の1つの強みがなくなりそうになっているといえる。

 経営者は日本企業の強みを取り戻すことを真剣に考えなければならない。そのためには、従業員が投資家的心理に陥らないように積極的発言をしなければならない。

 経営者は投資家ばかりでなく、従業員に対しても、IR的行動を取る必要がある。そのことに気づくべき時期に来ている。
(文責 鳥飼重和)-2003.7.10

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鳥飼 重和

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